楽しかった食事も終わり、良い満腹感の中、五人がそれぞれに過ごす。高杉は煙草を買いに行った。やや協調性に欠ける、と通知表に書かれていた学生時代となんら変わっていないようで、返事をしながら笑ってしまう。相変わらずだ。ヅラと銀時は式にかかった金額だとか、ドレスが結構なお値段だっただとか生々しい話を繰り広げていた。積もる話もあるだろうけど、大声で話されるのは気分が良いものではない。相変わらずだ。

その隣で、私は辰馬にお茶を出している。おいしそうに啜るのを見届けて、傍らで銀時が私の式の控室での照れ隠しについてヅラに語っているのが聞こえてきた。ふざけんな私は馬鹿じゃない。ただ、褒められる程の知能は持ち合わせていないけれど。つまり、平凡である。


「言っとくけど、私がこの五人の中でいちばんノーマルだと思う」
「はあ?」
「何を言っている時子、人妻となったお前がノーマルな訳無かろう。人妻は特性だぞ」
「違ェよ!!ていうか今そういう話してないから!」
「わしが一番普通じゃないかの」
「辰馬はだめ。社長だし」
「そうかのー」


ヅラが変態臭いことを突然言うから、銀時が殴っていた。アッハッハと笑う辰馬だが、私たちの中で一番まともなのはきっと彼だ。のほほんとしていておおらかに見える彼だが、自立していて一番社会貢献度が高い。なんせ一社の主だ。悩み事も多いだろうに、素晴らしい。



「そうだそうだ。やっぱり、俺が一番まともだろ」
「阿呆め。貴様のどこがまともだと言うのだ、そんなくるっくるの頭でよくもまあ」
「ヅラうっぜ!天パは関係無いから!何?俺の天使のような髪が羨ましいわけ?」
「たわけ!羨ましいはずないだろう!」
「天使…?」
「ヅラ黙ってろ。つーかそこー時子は変なとこで深く考え込まなーい」


天使って天パなのか、言い合う声を背景に疑問が湧いて来る。その時、不意にドアが開いた音が聞こえた。寸刻私の意識はそちらに切り替わる。煙草を片手に持ち、横着に靴を脱ぐ高杉が見えた。

ちろっと煙の匂いがしたから、早速道中吸ってきたらしいと察する。お妙ちゃんに叩き込まれた警察犬もびっくりのピカイチの嗅覚。これなら浮気を見破れるわよ、って笑顔で背中を押されたっけ。思い返しながらちらりと銀時を見遣る。大きなあくびをしている。できれば、というか、使いたくない。


「おかえり高杉ー」
「ああ」
「こっち来なよ。あ、先に手洗ってからね」
「わかった」
「今ね、誰が一番ノーマルかについて話してたんだ」
「へえ、俺だろ」



水を出す音が止まる。見れば少しだけ口元が楽しそうに笑っている。ただ喋るだけでもやっぱり良いと思うんだ、こういうの。そんなことを思っていたら私まで口元が緩む。



「何言ってるんだ高杉、お前が一番まともじゃないだろう」
「俺もそう思う」
「戯れ事だな」
「それにしても、まっこと、時子の髪は綺麗じゃのう」
「え?あ、ありがと」


いきなり褒められて顔が熱くなった気がする。さっきの、銀時の自称天使のような髪、だのなんだの話の延長線の言葉だろうか。そんな気障な事もさらりと言えてしまう、辰馬は絶対モテる。人を褒めるのが得意で、世渡り上手だ。女の子に優しいし、(まあ軟派とも言えるが)それに社長である。あからさまなモテ要素の持ち主だ。それに比べて銀時は……なんて、私が選んだ人だった。



「おいそこ、人の嫁口説いてんじゃねーぞー」
「な、不埒な!!」
「「ヅラは黙ってろ」」
「あ?真似してんじゃねえ銀時」
「お前こそやめてくんない?」
「……」
「どうしゆう?時子」
「うん…なんか」
「ん?」


私が選んで、銀時が選んだから、今の生活がある。大好き、なんて直接言える、日は近い内に来るのだろうか。それでも、この人が良いって思ったんだから、頑張ろう。なんでもないよ、と首を振ってから見つめた左手薬指は無性に輝いている気がして、一人で恥ずかしくなる。今なら私だってポエマーになれそうだ。そんなもんだろう。


- ナノ -