「もう朝か…」


ジリリリリリ、と頭に響く音に目が覚める。そういえば大音量の目覚まし時計を自分で買ったんだっけ。布団をバッと払い退けて体を起こした後、目やにを擦って隣をそっと見ると、やはりというか何と言うか銀時は気持ちよさそうに寝ていた。しかし、腹が見えるくらいシャツはめくれていて、身体は半分布団からはみ出ている光景に思わずギョッとする。ンーとかウーとか言いながら銀時はまだ起きる気はないようだ。寝相が悪いのは知っていたけれど、もしかして悪化してるのかもしれない、と目を疑わざるを得なかった。






キッチンには、ある程度の調理機や食器が揃っている。料理なんてまるっきりダメだった私に、両親が色々と買って贈ってくれたもの、自分で買ってみたもの、シールを集めて引き換えたもの、などなど。まだ朝が来たかもわからない、以前の私だったら思いっきり夢の中の時間帯でも彼を思えばたやすく目が覚める、いや別にたやすくは無かったけれど、とにかくなんて素晴らしいんだろう。名付けて新妻マジック。

シンクに触れると指先から伝わってくる冷たさがなんだか心地いい。そうしてから、すっかり冴えた私の聴覚が捕らえたのは、ぺたぺたという足音だった。裸足で寒くないのだろうか、そんなことを考える相手は勿論この家に一人しかいない。



「…はよーさん」
「おはよう。早いね」
「まーな」
「ふーん」


のっそり起きて居間まで歩いてきた彼は相変わらず怠そうだった。けれど、これから毎日、こんな風に言葉を交わす事ができる、今なら私はそれで十二分に満足だと思う。いつからこんなロマンチストになったんだろう、と一人で照れながら朝ご飯の支度に掛かった。





それと、毎朝銀時のネクタイを締めてあげるのが楽しみだ。オシャレな柄のを沢山買っておいたから準備万端である。社内でモテたら困っちゃうんだけどってそれは無いね。ナイナイ。ぼんやりと、くるくるに磨きがかかった銀髪を見つめていたら、ふと思い出した。



「はい…苺牛乳どうぞー」
「お、サンキュー」


モーニング苺牛乳を銀時はずずーっと音を立てて飲み始めた。余裕が出るまではやはり節約型の生活をしていこうと思っている。だけど、銀時が好きで飲みたいなら毎日出してあげても良いかも、と思う辺り。私なかなか良妻だろウンウン。

そんなことを思っていると、テーブルに置いた携帯が鳴り出した。この音楽は私に電話が来たことを知らせるもの。こんな朝っぱらから誰だっつの、とか零しながらも銀時は食卓に乗る携帯をこちらに手渡してくれた。ありがとうと言って画面を開くと、そこには見るのは結婚式以来である友人の名前が表示されていた。



『もしもし、』
「おーヅラおはよう」
『だからヅラじゃない、桂だ!何度言えばわかるんだお前らは!おはよう!』



ヅラは朝でも元気だ。耳に声が響く。ちょっとうるさい、が私は寛大なので我慢をする。


「朝っぱらからなんでしょう?」
『あ、ああ…実は今日、そちらへ遊びに行かせてもらいたいのだが』
「へ?」
『駄目か?』
「いやいや違うよ、ひとりで来るの?」
『いや。高杉にも坂本にもこれから言うつもりだ』



集まるのは久しぶりすぎてわくわくする。近くにあったメモ帳に「3人うち来たいって」と素早く書いて見せると銀時は露骨に嫌そうな顔をした。これはきっと素直じゃない彼なりのオーケーサインだと、勝手に良いように決め付ける。



「うーん…じゃあなんか買ってきてくれる?ご飯は作ってあげるから、他になんかおつまみとか」
『つまり行っても良いという事だな!』
「しょうがないなぁ」
『ありがとう、ではまた後ほど三人で伺う』
「はい了解、じゃあね」



ふう、急展開。
呟きながら銀時の向かいに座るとマグカップの陰で少し笑っているのが見えた。隠しきれてない、って感じだろうか。
あ、後で買い物に行かなくちゃ。勿論銀時を連れて。そんなことを暢気に考えて、ひとつ大きく伸びをした。


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