dannsou | ナノ





沈む夕陽を背景にターミナルの輪郭が浮かび上がる。立ち止まってしばらく眺める。かっけーと思わず口から感じたままの言葉が零れ、片手で口を塞いだ。

「…あ」


気付くと斜に子供がいて、こちらを見ている。独り言を聞かれたかもしれない。照れ臭さから一度視線を外してしまったが、気を取り直して顔を子供の方に向ける。彼はよく見たら鼻水と涙を垂らしていた。え?泣かした?驚きつつも静寂さに不釣り合いなあまりの形相に、またもうっかりと「汚ねっ」と声が出てしまう。いやいや。いくらなんでも失礼すぎるぞ…俺。即座にこれはまずいと察知して恐る恐る近寄ろうとすると、気付いたようにその坊主は大声で泣き出した。…だよね。


「あ、いや、あの」


嫌な汗がだらだらと流れ、周囲からの冷たい眼差しを感じてますます焦る。四方八方からのレーザービーム並の視線が痛い。それから逃げるために子供の手を引くが、動こうとしない。往来の真ん中で立ち止まるこの二人組は結構怪しいかもしれない。おいおいおい。これはやばいぞ、おいおいおい。もはや自身の罪悪感がどうたら以前に、隊服を着ているという事は真選組の名前を背負う事に直結する訳だから、これじゃ真選組信用問題も益々深刻化する。やべえ。


頭に般若のような副長の顔が鮮明に浮かんだのを無理やり振り切って、手当たり次第にポケットを漁る。咄嗟に、以前たまたま貰ったジャスタウェイのキーホルダーを渡すと、あっという間に泣きながら放り投げられる。思ったよりも飛んだ。どっか行った。ジャスタウェイどっか行った。ジャスタウェイの尊い犠牲に嘆きたいのを堪えて、次に見つけたキャラメルを子供に手渡す。ぱちぱち瞬きをしてキャラメルを見つめていると思えば、すぐ包みをあけ口に放り込んで噛み始める。驚く程簡単に泣き止んだ。

少年がキャラメルを夢中でくちゃくちゃ噛んでいる間に腕を引き、近くの公園に入った。水道で顔を洗わせ、いや、ご自分で洗っていただいた。水を拭く前によくよく顔を見たら眉毛が極太で、「水が眉毛から半永久的に滴り目に入って目が開けられない」という現象を初めて目の当たりにしてしまった。子供は眉毛の処理なんてしないもんなぁ。かわいそうになったので直ぐにしっかり拭いた。



「ごめんな!本当にごめんなさい!」
「……かえりたい」
「へ」
「オレんちどこ?かえる」
「えっと……ボク、迷子なの?」
「ちがう!!!」
「へ、へえー」



全力で否定する様子は子供らしくて可愛いが、オレんちどこ?とはこれまた斬新な質問である。とりあえず少年が言う通りに道を行く。着いた先は隊長も愛顧している駄菓子屋だった。

古めかしい看板を見上げたあと「ここ家なんだねー駄菓子屋かーうらやましいなー」と隣を見下ろしても居ない。少年が居ない。まさか、と思うとそのまさかは良く当たるもので、少年は駄菓子を楽しそうに物色していた。財布を確認してから、満面の笑みの奴を睨み付ける。こっの野郎。やり手だな、極太眉毛め。


- ナノ -