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「なんだか最近寝つきが悪くて…」が近頃口癖になっているザキさんとは違い、ばりばりの快眠を摂っているのだが、今日はなんだか早くに目が覚めた。いつもより部屋の空気が冷たい。布団の中でしばらくじっとしていてももうすっかり頭は覚醒してしまったようで大きな眠気が襲うことは無い。昨日こっぴどく叱られた後、拳固を落とされた頭が未だじんわり痛む気がする。くそ、ここに来てから何回目だよ、副長も相変わらず鬼だよな。グチグチと呟いても、愚痴仲間のザキさんや対土方に年中燃えている沖田さんがいないのでつまらない。


こうなったら自主練習でもするか、と気合を入れて布団から抜け出す。汚名返上の意味も込めて。これこそ向上意欲にあふれる隊士の模範である。隊服を着て、襖を開けると外もやはり静かだった。できるだけ音を立てないように廊下を歩いて、目的の道場に入ると思いもよらず先客がいた。びっくりした。


「なんだ、お前か」


素振りをしていた後姿が振り返る。そこにはさっきまで愚痴の対象としていた鬼の人こと土方副長がいたので、内心ちょっと焦った。額の汗を腕で拭いながら、こちらを訝るように見てくる。目つき悪っ。


「なんですかその目」
「あ?」
「俺が来ちゃおかしいですか!」
「やんならぐだぐだ言ってねーで早く準備しやがれ、相手してやる」
「え!?ええ…」
「んだよ、俺じゃ嫌だとでも言いてえのか」
「はい」


正直に言うとますます人相が悪くなり、もはやお前が悪人だというような凶悪な表情と化した。「テメエ…」なんて恐ろしさ割り増しのトーンで言っている。真選組のイメージ、チンピラ集団。それを脱するにはまずこの人の目つきを改善しないことには始まらないだろう。しかしながら、きっとそれはいつまでも叶わないとも思う。


「手加減しないでくださいね。できるだけ」
「…あー。たぶん」
「竹刀取って来ます」
「早くしろよ」
「……せっかち」
「なんか言ったか?」
「いえ何も」


目つきも言葉遣いも最悪な人だけれど、結局のところ副長は優しいと私は知っている。早起きは三文の徳というが、あながち間違いでもない気がする、そんな今日も晴れ。


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