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「俺さー女で産まれたかったかも」
「へえ、どうして?」
「お洒落も幅が広がるしやっぱ可愛いじゃん」
「そっすかー」
「いくらボーイッシュにしてても、雰囲気でわかるしよ〜」
「ですかねー」
「そういうモンなんだよ、まだまだだな新米」


でも俺、女っスよ?
笑みと同時に滑り落ちそうになった言葉を噛み殺した。あはは、ちょっと悲しい。完璧すぎんのも複雑だわな。それとごっついアンタが女の子になった場合なんて想像出来ないし。つか、なってもかわいくなさそーだし…その前にそれ武士としてあるまじき発言だと思いますよ、先輩。ぷっ。






「…お先にっ、と」


むせ返るような酒臭さと男臭さが入り混じった強烈なニオイから逃げるように宴会場からこっそりと出た。きっと局長は今頃裸で騒いでるんだろう。今日は今年新しく入った隊士の歓迎会だ。といってもそれは建前で数ヶ月前入隊した俺でもわかるが、皆酒が飲みたいんだって事。

俺は悪酔いとか、すぐ脱ぐ人ばかりの野蛮な宴にはいくら文句を言われようが最後まで参加したくない。真選組自体が野蛮な連中だって、世間では言われてますけどね。お酒は大好きだし、話も苦手じゃない。が、お前も脱げとかもっと飲めなんて言われたら困る。だって俺女だし?うん、これバレたら大変だから。有り難いことにフォローが得意な上司もいるけど、まず危ない状況はつくらないのが先決。

局長の乾杯の音頭に合わせて少し呑んで話して、美味しいつまみ料理を食ったらサッと退散。と、不自然にならないよう協調性は持つ。つうかちょう眠い。今なら歩きながら夢の中へとゴーできそうだけれど、汚い身体のまま布団に入りたくない、これ当たり前。第一、今日は結構働いたので風呂に入ることにした。








「……あー寒っ」


だいぶ騒ぎ声が小さく聞こえるようになった辺りの廊下で、とたとた酒持って駆けてく女中さん。すれ違い様に予想通りの言葉がかかる。


どうしました? ちょっと酔い醒ましに。


別に嘘をついている訳では無いけれど何故かちょっぴり罪悪感。それにしても綺麗な人だったなあ。広間より冷たい空気を吸い込みながら風呂場に向かう。隊士達が風呂に入る時間はおおかた決まっているのだけれど、今日は歓迎会だ。時間になっても誰も入ってきやしないだろ。むふふ、と零れる笑みを隠しもせず少し歩を速める。今までどれだけ俺がこのチャンスを待ち望みにしていたか他の奴にはわかるまい。皆が入った後に浸かる風呂は、それこそ汚すぎるだろって位最悪だったんだから。酒が飲めて、風呂を一人占め。前もって副長にも局長にも入浴の許可取ってあるし、これだけで今日は良い日だなんて思える俺は、単純だろうか。


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