dannsou | ナノ





「へえ」
「本当にごめんね……」
「はい」
「ごめんね……」
「そんなに謝らないでください。かえってみじめになります」
「いやいや謝れよおおおって数分前に怒鳴ってきたのそっちでしょ!?」
「えー?」


そのようなせせこましいことを言ったという記憶は俺の頭にはない。全くない、断じてない。申し訳なさそうな表情から一変してここぞとばかりにツッコむザキさんを寛容な心で許して、見送って今に至る。要するに暇していた。
綺麗に晴れた青空が眩しいのか、目の前を横切る猫さえもなんだかその眼を細めているように見える。どこかへとすたすたと去っていく姿を目で追う。いい加減に、真昼からベンチで黄昏れるのもやめよう。ちょっとだけ、今更恥ずかしくなってきた。




しかし問題点がある。第一に、約束をドタキャンされて行き場を無くした自分は一体どうすればいいのか。加えて、行き場のないこのやるせなさもどうしたらいいですか。答えてくれる優しい人はここにはいない。


山崎さんよォ、良い度胸してますねェ…なんて脅しのひとつでもかませればよかったけれど、なんせ彼は密偵という特殊な職務に就いている訳だから、悪たれることもできない。そう、俺は決して悪たれてなどいなかった。無論。そうして、そんなモヤを晴らすような楽しい事は無いし金も無いしで、今自分にあるのは半日丸ごとの暇のみである。


「……痛い」


おい。どこからか砂利が跳んできたぞ。顔を上げれば、やーいぼっちぼっちー!!と見覚えのある子供がこっちを指差して嘲笑っている。あ、あの極太眉毛。この間迷子になってべそを掻いていた所を送ってやったはずだろう。恩人に向かって砂利を投げくさる。考えてもみろお前、砂利だぞ。しかしシメたろか、と拳を握り上げても生まれたのは虚しさだけだった。近頃のがきんちょの憎まれ口は心にグサグサ刺さるものが多くて困る。ていうかお前、砂利では飽き足らず木の枝構えんのやめろ。堪えるこちらをいいことに、その場から退こうとしない悪がきを追い払ってくれる誰か募集中。


「おい」
「ぼっちー!!!」
「うっせ!どっか行きなさい!」
「お腹すいた」
「はやく家に帰れ!」


大人をなめるとあとで本当に後悔することになるという事をわかりやすく思い知らせるためのアイディアも募集中。


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