この間の大雨で、花はほとんど散ってしまった。暖かい陽を受けながら、青々とした葉っぱが大半を占める木々をぼんやり眺める。道をゆっくりと歩いていくと、休みのはずなのに人通りもあまりない待ち合わせ場所には既にラビがいて、遠くからおーいと大きく手を振っていた。何かに追われていると、きっと心にも体にも余裕が無くて、上を見遣ることを忘れてしまう。久しぶりの姿を目に捉え、遠くの彼に手を振り返して駆け寄ると、ラビも慌てたように小走りでこちらへ向かってきた。

「お待たせ!」
「走んなくて良いっつの!」
「でも、待たせたし」
「待ってない。つうか、こっちが勝手に早く来ただけなんさ」
「そう?」
「そうなの。だから気にすんな」
「そっか」



じゃあ行くかぁ、とラビは軽く口の端を持ち上げて、私たちは共に歩き出した。今日は特に行き先を決めていない。久しぶりに会おう。適当に歩いて買い物したりして、適当にご飯食べて。そんなことを軽くケータイでやりとりして、それきりだった。その歩幅は自然と私に合わせられていて、あぁこの感じ久しぶりだなぁと思わず微笑むと、目敏く気付いた隣のラビに、顔を覗き込まれる。


「なんさーニヤニヤしちゃって」
「なんでもない」
「わかった、俺に久しぶりに会って嬉しくなったとか」
「…遠からず?」
「まじか」
「なに」
「いつもそれくらい素直な方がいいなと思って」
「ラビに言われたくないなぁ」
「心外さぁー」


オレはいつも自分に正直なんさ、と調子よく笑ったラビは、私の手を取って握る。なんだかそのまま歩き続けるのも照れくさくて、次第に汗ばんできているように感じる。適当な店を見つけたふりをして、入ってみたりした。私の思惑に気づいたのか、適当に見た後に店を出ると、ラビはすぐにまたその手を私の手に重ねた。なんとなく「べたべたするでしょ」なんて聞いてみれば、彼は私の問いには答えず、ふっとおかしそうに笑みをこぼして顔を覗き込んだ。


「なんか変さぁ」
「なにが」
「ちょっとの間会わなかったっていうだけなのに、そんなに照れるもんだから」


おかしそうな顔のまま、ラビは言った。どうにもきまりが悪くて、とっさに照れていないと伝え返す。風が強めに吹いて、髪が顔にかかる。そのままラビから視線を逸らして、なんとなく黙ったままでいると、相手も何も言わずに沈黙が重なる。とてつもなく長いように思われた数十秒間の静けさが続いたところで、ラビは握っていた手にこめる力を強めた。
 
 
「風、強いな」
「……そうだね」
「さっきのは語弊があったさぁ、ちょっと」
「語弊?」
「そ」

思わずラビの方に顔を向けると、かちりと目が合う。ゆっくりとした歩調のまま、次の言葉を待つようにして目を合わせたままでいると、ラビもじっとこちらを見つめてなかなか口を開かずにいる。謎の見つめ合いが数秒続いたあと、耐え切れずに笑みがこぼれてしまう。それを見てラビは微笑んだかと思えば、やけに真剣な表情を携えて、目を合わせたりどこかに逸したりを繰り返す。


「会わないだけで、会わないでも時間は過ぎちまうんさ」
「へ?」
「だから、会いたいときに会おう」
「う、うん」


唐突な言葉に、なんのことを言ってるのかよくわからず思わず間抜けな声が出る。首を傾げるもラビは真面目な顔のままにゆっくりと続けた。


「死んだら会えねーかんなぁ」
「ふふ、いきなりだね」
「そうかぁ?」
「じゃあ、明日も会う?」
「そうする?」


あっという間に口元を緩めてからからと笑うラビは上を眺めて、今更のように今日は天気がいいと呟く。それでも夜から雨だという予報が出ているらしいと伝えると、どうでも良さそうに間抜けな返事を返される。全く雨なんか降りそうもないのに、明日にはがらりと天気が変わってしまうかもしれない。降らないといいなぁとぼんやり思いながらまた道なりに歩く。


「よく考えれば、デート久しぶりで照れてくれるっていうのもおいしいな」
「……おい」
「腹減らん?」
「まあ……」
「じゃあ、この続きは座っておしゃべりしようさ」


当たり前じゃない。その言葉を頭の中で反芻させながら、喫茶店を指さし私の手を引くその掌を握り返す。さっきよりも指先の熱がぐっと伝わる。何を食べようか考えながら楽しそうなラビの隣を歩く。ふわりと、暖かな風がまた髪を揺らして通り過ぎていく。


/今日の次
title:舌
15.04.26


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