春風は好きだ。好きだが、どこか嫌いでもある。少し前にいったん風が止んだのはいいが、揺れるブランコもゆっくり止まり、とうとう暇つぶしに見るものがなくなったのはもう五分前のことである。それからこの公園に訪れた、数メートル先のベンチに腰掛けた老夫婦を眺める作業も、そろそろやめたい。なんだじじいもばばあもここでせんべい食いやがって。バリバリうるさいしめっちゃ匂ってくるし。なんでここなんだ。

他に何かすることも見つからず、手持ち無沙汰な俺の手には、手汗さえにじんでくる。ただただ人を待つというものつらいと身をもって知ることになったのは、他の何者でもなくあいつのせいである。出会ってすぐに叱り飛ばしてやろうかなと思っても、きっとだんごでも奢ってくれりゃあ許してしまうに違いないのだ。
あーあ。いつもあいつはこんな気持ちだったんだなあ、むかつくなこれ。そんなことを考えてみても、今更感謝のことばを吐けるかは別問題なわけだ。


ぐるぐる考えている間に風がふわっと一瞬吹いて、揺れる前髪に視界を遮られる。思わずうつむいてそれから顔を上げたら、あいつが遠くから手を振っていた。こんなに離れたところからこいつを見るのは久しぶりだ。のんきな姿にため息が出る。


「ごめーん!」

ドタバタという音が聞こえてきそうな、運動音痴まるだしの走り方でこっちに向かってくる。精一杯申し訳なさそうな顔をしている。俺が軽く手を上げて返すと少し笑った。頬が少し赤い。どんだけ走ったんだ。しばらく眺めて、それからこちらからも歩み寄るとものすごいダッシュをしたまま髪を整え始める。もうおせえよバカ。


「珍しく遅刻した!」
「そうだけど自分で言うな」
「はいはい、めんごめんご!」
「おい」
「お詫びはだんごでいい?」
「…おう」
「一本でいいよね、いいよ」
「あーあ、俺がやさしい男でよかったなぁおまえ」
「やさしいっていうか安い?」
「うるせえよ!」

ま、安い男と安い女で、お似合いじゃないの、そう言おうかとも思ったがなんだか口に出せそうもなくてやめた。遅刻したくせに威張っていて、しかも俺を抜かして歩き出したこいつに鉄拳を食らわすことができるのは俺だけ。逆もしかり。そう思ったら、別に今は言葉にしなくても良いのだと思う。背中をゆっくり追いかけながらどのだんごにするか考えていると、「はやく!」と彼女が立ち止まって振り返る。春風に吹かれて、髪がなびく。

腹が立ったので追い抜かしてやった。いいや、二本にしよう。




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