「やっぱさ、夏といえば花火だよねー」


ひゅー、どん、どん。そんな大きな音をバックに当たり前のような事を言っているのは俺の幼なじみ。近くの河川敷で行われる花火大会に行くのも、毎年恒例になってしまった事なのだ。別に、嫌じゃない。むしろ嬉しいしこの花火があるから俺は夏が楽しみだと言っても過言ではない。誰にも踏み込まれずにコイツと居られる、幼なじみの特権。なんだかんだで十年以上の付き合いの俺達は、普通の友達とはまた違う何かで繋がっていたんだと思う。なんて、何を考えてんだ。我ながらいつの間にこんなロマンチストになったのだろうか。それもこれもきっとなまえのせいだ。綺麗な装いのなまえは小さい頃と変わらない、屈託の無い笑顔で俺を振り向く。



「今年も俺と一緒に花火が見られるんでィ、ありがたく思え」
「えー、何それ!」
「こんな素晴らしい幼なじみ、他にいねーだろィ」
「総悟こそこんな可愛い幼なじみ、他にいないでしょー」
「……愚問でさァ」
「何その無駄な間!」


自分で言ったのにも関わらずどこかがチクリと痛む。幼なじみ。その言葉の関係のまま花火の下でこんな会話をしていられるのは、いつまでなのだろうか。無駄に優しくて馬鹿ななまえの事だ、付き合い全てが終わる訳では無いけれど、確実に隣は俺の特等席では無くなるだろう。一番近くにいられる平穏で安定な、この特等席を誰かに譲る気も無い。隠れるように深めに息を吸って、なまえの手を黙って握った。


「……そういえば、小さい頃もこんな風に手を繋いで花火を見たね」


沈黙を埋める訳でもなく、ごくごく当たり前かのように呟かれた一言にひどく動揺する。俺は何も言わないし、それだっておまえは手を握り返すんだ。……なあ、幼なじみってこんな年になっても変わらず手を繋ぐものか? 聞いたら、どうなるんだろう。「そうなんじゃない?」なんて笑って言われちまったら俺はどうするんだろう。どうもしないだろう、そうは思ってもなんだか聞く気にはなれない。いつのまにこんな腑抜けた人間になってたんだか、こっちこそ笑っちまう。変わらない穏やかな笑顔の隣で俺は闇夜にまぎれて少しだけ笑おうとしてみる。あーあほんとに、柄でもない。これで満足なはずなのに。

誰にも聞けず、今日も過ぎていくだけ。




アスチルベ様に提出



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