やはり心なしか今日はなんだか銀ちゃんはウキウキしていた。跳びはねたり、なんてあからさまな行動はプライドが許さないのかもしれないがやけに気前が良かった。その理由はちょうど一週間前、新八くんから聞いたからわかっている。


「銀さん、一週間後に誕生日なんですよ」



「え!?聞いてないよ!」がその時の私の第一声だった。知らなかったどうしよう。普通付き合ったら最初に聞くものなのだろうか。まだ付き合って5ヶ月の私は彼氏の誕生日をまるで知らなかったのだ。なんで私じゃなくて新八くんが知ってるの?「ほら、彼氏として催促しにくかったんじゃないですかね?」最もらしいような言葉も、なにかの言い訳にしか聞こえなかったのだ。そんな自分に貼った笑顔が引き攣って、胸がちくりと痛んだ気がしたのを覚えている。





そう、それは一週間前の事、過去の事であったのだ。今現在私は当日にもかかわらず銀ちゃんのプレゼントへと頭を働かせ悩んでいる。高校生活での中で一番悩んだかもしれない。あれでもない、これでもない。探し回ってもしっくり来るものが中々無い。銀ちゃんは甘いものが大好き、それは彼と接触がある誰であっても知っている事だ。もしかしたら同級生全員、あるいは女子全員が知っているのではないか。その我が推測に肩がずり下がる。どうしようどうしようどうしよう。大事な事なので三回言いました。急いで店から店まで走り回ってみたものの、その分焦って転びそうになる。気付けば見慣れた景色は橙色。すっかり太陽が昇って落ちて、夕焼けになっていた。夕日の前に佇むのは彼が一人暮らしをするマンション。だって、見つからなかったから仕方が無い。そう言い聞かせても、やっぱり悲しいものは悲しい。なんでこんな事になるんだろう。



「…ああもう最悪だ」
「何が、最悪だって?」


それは仕方無しに決めたことだったのに、自分から行く僅かな手間さえも無くなった。彼が目の前にニヤニヤを隠しきれずに立っているのも、きっと私が自分の家の辺りまで来たのが何故だか、わかっているからだろう。全身から楽しげな空気を放出している彼だが、こちとら手汗が尋常ではない。「いや、べ、別に」お目当てのものは、無いんです。



「で、どーしたの?もしかして俺に会いにき」
「あの、ごめん!」
「……は?」
「今日、誕生日…ですよね…」
「おう、そういや教えてなかったよな?」
「プレゼントさ、」
「あー」
「買って、ない」
「あー……えぇええ!?」


や、やっぱりびっくりしてるよーどうしよう!心の中で叫びまくる私の顔はきっとすごいことになっているんだろう。銀ちゃんの今の表情は、驚愕というか愕然というか言葉も出ない感じ。ホントに申し訳なくて、かける言葉が無い。しかし、私には仕方ないので無い知恵を捻りに捻って考え出した、たったひとつのプランがある。けど、やめよっかな!これ今更だけどめっちゃクサイよね!そんな風に脳内で葛藤を繰り広げて……でも、あー!



「でもプレゼント、あげるからさ…」
「…いや、良いんだよ。うん、気持ちだけで」
「違くて!あの…えーと…」


肩を落としてひくひく笑う銀ちゃんは今から言う言葉を聞いたらなんて顔をするだろう。うわなにそれ怖。銀ちゃんは優しいが、そういう問題じゃない。覚悟だ。喜ぶかなんてわかんないし、やっぱり後から甘いものでも奢ってあげようか、それが妥当だとか頭の端で考えている。これをあげられるのは、銀ちゃんだけだよ。なんて言うはずもないけれど、顔が赤いのは仕様だ。


「私を、貰ってください…みたいな?」
「……え?ななななに、マジで?」
「聞くな!」
「あー」


大切にしとく、と笑った銀ちゃんが見られただけで、私はもう充分、いやそれ以上だと思うのだ。くさいけど、まぁこういうのもたまにはいいってことにしておこう。そうじゃないとやってられない。



SAKATA  2009 1010 HAPPY BIRTHDAY!



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