※現パロ

朝、大音量で部屋に響く電子音に私の意識はすっかり醒めてしまった。ピヨピヨ、チィ、だかよくわからない声は止まない。黙れ。心で唱えた。知らない鳥の鳴き声と電子音の不協和音が響く。耳が爆発しそうだ。

「…誰…」

じわっと汗をかいた首元、そこに纏わり付く髪の毛に苛立ちを煽られる。なんだっていうのか。私は何も悪いことはしていない。こんな仕打ちを受けるだなんて、聞かされていない。拾った小銭を交番に届けなかったぐらいで不幸が届くこの世の中はなんて懐が狭いのだろう。片手で画面を開くと、昨日会ったばかりの知った名前が表示されていてうんざりした。

「……坂田先輩……しね」

渇いた声で小さく呟く。独り言が思わずこぼれるが、口に出して更に眉間に皺が刻まれる。坂田銀時先輩は意外に早起きだった。どうでもいいけれど、ほんの少し感心する。布団の中で横を向いたまま軽く咳をする。くだらない用件だったら即時切ろう。そうしてから顔を洗って水を飲もう。頭の中で予定を立て、通話ボタンを押した。

『もしもし』
「はよっす」
『……オメー先輩って言うからには俺を敬ってくんない』
「敬ってますね」
『ん?どこが?』

相変わらずの騒音具合に、思わず耳から携帯を離す。今何時だと思ってるんですか。朝に似合わぬ音量のそれが、電波を挟んだ向こうから惜し気もなく飛んでくる。それでも何を言っているのかが聞き取れるっていうのは、けして私の耳が良いからって訳じゃない。つくずくはた迷惑な人である。

「先輩、いきなり何の用ですか」
『うんホント余計なお世話かもしれないんだけど。君さ〜うん、もうちょっと愛想ってもんをさ』
「用件をどうぞ」
『………』
「色々ともったいないし切ります」
『待て、いや待ってください』

通話料と、それから特に時間が。自分から掛けてきたくせ、本題をなかなか言わない先輩にいつもの事ながらイライラする。チッという舌打ちの音が明瞭に聞こえてきた。どういうことだ。人の快眠を妨げておきながら、先輩は良い根性をお持ちのようだ。褒めているわけではない。

『…あーアレだよアレ。銀さんさァ、ちょーっと金銭的な余裕が出来たんだよ』
「だから何だ」
『何その態度ォォォ!!』
「なんで怒鳴るんです、こっちは昨日夜更かししたせいで眠いんですよ」
『んなの知らねえよ。つーかお前その言葉遣いはやめよう?ね?』

欠伸が出てきた。筋肉が強張っている感じがするし、まだ瞼は重く寝足りない。先輩なら自慢する為にわざわざ電話しただとか言いかねない。彼に私のイライラが到底わかるはずもない。掛け布団のにおいに任せて、携帯電話を持つ手を離してしまおうかとも思った。

「用件をどうぞ」
『優しい優しいこの俺が飯奢ってやろうかー…どうだ有り難いだろーって事』
「……」
『アレ?ちょ、おーい聞いてる?』
「……へえ」
『は?なに?アレ、てれちゃった?あーそうかそうかようやく気付いたか俺の魅力に』
「土に還ってください」
『なんでだよ!』

これは、どういうことだろう。急に汗が出てきて、空いた手で拭うがべたついて気持ちが悪い。ベッドの上から起き上がり、「おいおい照れんなよ」と何度も繰り返してくる先輩の声をBGMに早々と洗面所に向かう。鏡に映っていた自分の顔は汗が滲んでいる上、口の端が片方だけ上がっていて不気味だった。高杉先輩みたい。

「いやしい坂田先輩がまさか…そんな…」
『ホント相変わらずだなお前!』
「冗談です。冗談です」

いきなり昼飯を食べさせてくれる提案をして下さるなんて、なんの気まぐれだろう。なんせ彼はケチの中のケチだ。。全く検討もつかないけれど、折角の優しさを無駄にすることもないかな、なんて考えた自分はすごく気持ち悪い。一気に全身に鳥肌がたった。

『まあいいわ、昼頃とりあえず俺んちまで来い』
「え?」
『え?』
「外食じゃないんですか…」
『違うわ!俺が作ってやるっつってんだよ!外食なんて出来る余裕なんてウチにはありません!』
「え」
『あ?』
「いや…やっぱなんでもないです」

男の手料理にありつけるのを単純に喜んでしまうのは良くない。豪快の二文字で済まない気もする。坂田先輩の料理スキルもわからない。こちらから金欠を理由に哀訴した訳でもなければ、そんな話は聞いたことがない。なんだかこう、直感的なものだけれど、あまりレパートリーは豊富ではなさそうだ。食費も手間も浮くのは有り難いが、今日の先輩はいつにも増して不可解だ。

『他に変な奴連れてくんなよ』
「すんません。私の知り合いには変な人しかいません」
『そうじゃなくて』
「はい」
『だァかァらァ、誰も連れてくんなって言ってんの。連れてくんの新八ぐらいならまあ良いけどな。ドゥーーユーアンダスタン?』
「発音…」
『うるっっっせえなさっさと用意して来い!』

通話は終わった。きっと坂田先輩は乱暴に電源ボタンを押したに違いない。あちらからかけておいて何を言っているんだか。ご飯を食べにおいで、と言うならさっさと言えば良かったのに、なんとも回りくどい。迷惑極まりないテンションで、そのうえ英語の発音は最悪だし、何故か最後の最後でキレられた。けれど、来いと言われてしまえばそれは照れ隠しにしか思えない。ははん、なるほど。さっきはそう思った。
いっちょ前に、後輩の私を気にかけてくれているらしい。おかしい。先輩の部屋はきっと汚いだろう、だらし無いだろう。くだらない推測をしながら布団を蹴り退けた。新八くんにも電話しておこう。彼なら、汚らしい先輩の部屋も掃除してくれそうだ。私も人の事は言えない発音だが、アイアムハッピー、ってことにしておいてほしい。



/ずるいなぁ
10.07.27



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