※現パロ 子どもがいます





「ねーねー」
「ん?」
「ボクね、ママのおむこさんになるの!」
「へー頑張れよー」


小さい歩幅に合わせてゆっくりと進む。街行く車の、騒音の合間に始まる話をだらだらと聞く。ちっこい手を握って歩いて、住宅街に入っていく。まだ幼稚園生の息子。どこで婿なんて言葉を覚えてきたんだか知らないが、いくら足掻こうが今頃家で俺らの帰りを待っているであろう彼女は俺のもの。だって、まあ、嫁だし?めちゃくちゃ幸せ絶頂期だし?かわいそうだから、こいつには言わないけれど、実際のところは誰にだって言いたい気もする。つーか自分自身まだまだ現役だと思ってるし?結構会社でもモテるからね、俺。もちろん、彼女以外眼中に無いけど。

なんて、馬鹿なことをいくら考えていても、俺はこいつの父親である。いい大人もこういうことを考えてみたくなるのだ。くだらないことを浮かべて歩くスーパーからの帰り道は、案外いいもんだ。冬だというのに少しぬるくて風がゆるやかだった。こりゃあかなり花粉飛んでるな、と推測する。



●■▲


夕飯が終わった。テレビを見ながらソファーでゆるりとくつろぐ俺の隣、近頃生意気ざかりの息子が、彼女の太ももの上に乗って抱きついている。それに加え、胸に頭をうずめながら、良いだろ羨ましいだろとでも言うかのような、ガキらしからぬ歪んだ笑顔でこちらを見ている。近頃は俺だって触ってないのに…いやいや、そうじゃなくて、違う違う。幼稚園生になったばっかりのくせにハレンチー?みたいな、そういうことである。変にマセやがって。さっきはほのぼの買い物を一緒にしたが、こうなりゃ全く話は別である。


「こんのクソガキ!」
「何してんの!」
「うぐっ」


思わずひっぱがそうとすると、彼女に怒鳴られ殴られてしまう。仕方なく引き下がる、そんなはずもなく、だったら俺も!と背中に抱きついてみると、ふわりと柔らかい匂いがする。彼女の暖かい体温も、こいつが生まれるまでは俺が独り占めしていたわけだ。そう考えると、すごくにやけた。子供ができた今だって名前で呼び合うし、新婚気分は抜けない。きっとこいつが大きくなっても、このまま。ずっと、このままでいたい。


「パパくさい」
「お黙りバカ息子」
「ばかじゃないもん!!」
「暑苦しい…」

さすがに臭いはやめてほしい。俺だってまだ働き盛りの若々しい新入社員だ。大丈夫だ。子どもというのは時に、何よりも辛辣である。まだ俺加齢臭とか全然しないよな、そうだよな。


「臭くないよな?な?」
「うーん、とりあえず離れてくれたら良いな」
「あのなぁ、冬ってのは人肌恋しい季節なの」
「あーもうあつい」
「良いじゃねーの、な?」
「よくない!ママはぼくのだもん!!パパはあっちいけー」
「……ふーん…そんな事言っちゃって良いんだな?」
「いいの!」
「あーそういやァ、さっきおまえ、ママのお婿さんになるとか言ってたな」
「あら」



こうなったらこうだ。嬉しそうに笑う彼女には抱きついたまま、その胸のなかにいるわが子に、にたりと口角を持ち上げて話し掛ける。可哀想だからと言わないでおいて、いまさら乳臭い坊主に大人げない気もするが、なんとなく言ってやりたくなったのだ。


「でもな、うん。残念だけどやっぱおまえじゃなれないんだわ」
「え!?なんでなんで!」
「パパがーママのお婿さんだからー」
「うそだ!」
「な訳ねーだろ」
「ぼくだってなれるよ!」
「さぁ、どうだろうな」
「もう銀時!やめ!」



勝った。嘘じゃねえよ。なにそれー嘘だったらこの世に君はいないんですよこのマセガキめ、と内心毒づく。それでも、俺だってコイツが可愛くない訳じゃあないので、さすがに引き際は考えた。なによりもこんなに言い合いができるまでに成長したことを感じて、すこしばかり感動した。

彼は俺のことをちっさな拳でぽかすか殴る。軽い軽い。しめしめとほくそ笑んでいたら、彼女からは制裁とでも言うかのように足蹴りにされる。こちらは比にならない程めっちゃ痛い。大きな痣が出来そうだ。けどなんか幸せだから、俺らはこんなんでも、いっか。


/いつもの幸せな日常に贈る
10.01.21
企画「涙墜」に提出。ありがとうございました。



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