「あーあ」

あまりいい匂いは、しない。というか、全然しない。そんな風に考えて、悲しいというより、私は半ば自棄になっている。記憶している中で、毎度何に於いても仁王は私より一枚、それ以上も上手だった。仕方ないとしたって、自分の引け目だけ浮き彫りにされているような気分になる。なんて、仁王に言ったらどうなるか。怒るか呆れるんだろうと思う。だから何も言わない。でも、こんな事してる私がたとえいなくても、安々と仁王は生きていける筈だ。汲々と考えている私の頭に軽くチョップが入った。


「こんなもん食べれん」
「ら抜き言葉とは感心しないね」
「んな事言ったって、料理はうまくならんわ」
「チッ」


じっと見つめた先には、先程購入したばかりの食材の成れの果てがあった。結果、指先の絆創膏が増えただけかもしれない。キッチンに様子見に来た仁王が、一口摘んで食べて、もう一度苦い顔をする。「修行の道は長いのう」とちょっと笑って私の頭をぽんぽんと撫でた。ごめんね、と心の中でしか謝れない。仕方ない、なんて諦めるくせは治らない。悟ってくれたら楽だけど、それじゃ今までと変わらない。修行も終わらない。
どうしよう、と俯いたら隣で距離を埋めるように仁王は腰を少し屈める。それだけの事に涙が出そうになった。最近は、どうもいちいち涙腺が緩む。しかし、今まで仁王はそんな私を馬鹿にしてきたっけと思い返して、ムカムカしたので直ぐにその涙は引っ込んだ。


「頑張りんしゃい」
「わかってる」
「かわいげの無いやつじゃのう」
「…仁王は、かわいげの無い私で良いんだ」
「良くないのに、一緒におらんよ」
「…」
「今の、かっこよかったじゃろ」



そのかっこよさに免じてまた頑張ってくれんかのう、なんて軽く言ってまた頭を撫でる。黙れ、なんて言えない。うまく嗜められた気がして、もう一眠りしてくるぜよと去ってしまおうとする背中を追いかけてどついてやった。



へなちょこ
11.04.05



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