珍しく、神楽ちゃんが僕がご飯を作るのを手伝ってくれた。今日は敬老の日や、母の日とか父の日でもなんでもないし、本当に気まぐれらしい。ふいに芽生えたのであっても、いいことじゃないか。神楽ちゃんなりの親切心だと切に祈っている。



「ご飯出来ましたよー」

「出来たアルー」

「おー」


テレビを適当に見ながらろとしていた銀さんが、覇気の感じられない声を上げて食卓へ近寄る。本当に相変わらずぐうたらなんだから仕方ない、という僕の傍ら、何だかそわついている神楽ちゃんが身体を揺らしていた。



「「「いただきます」」」


小気味良い音が響いたのが合図。手を合わせて、各々が箸を伸ばす。普段なら真っ先につまんでは食い、つまんでは食う暴食神楽ちゃんが箸を中途半端に止める。青い大きな双眸は、銀さんがおかずを口に入れるのをじっと見ていた。僕もお茶を飲みながら、さりげなく銀さんの反応を待った。この緊張感が普段から多々出たらば、もっと仕事は効率が良くなって捗るように思うんだ。


「うまいアルか?それ…」

様子を伺うように神楽ちゃんが聞く。卓上には湯気と匂いが広がって、神楽ちゃんの腹が平素より控えめに鳴った。食い入るように必死な眼差しで口に入れるのを確認する。けれど、神楽ちゃんが自分が作ったんだということを打ち明けようとする直前に、銀さんが凄い勢いで口の中の物を一瞬にして吹いた。僕は思わず瞑目した。そういえば僕、味見してなかった、と数分前を思い返す。


「ぐぶッッ!!!なんなのこれマズッ!」

「……あー」

「ひどいネ!やっぱり銀ちゃんはサイテーアル!」


またいつもの喧騒が部屋を占めてパーになる。それに紛れて僕は軽く溜め息をついた。それにしたって、気が利かないんだ銀さんは。神楽ちゃん、珍しく頑張ってたんだから。言いたいことはたくさんあるが、僕が言うのもなんだかおかしい。でもやっぱり。味はどうであれ少し我慢して飲み込むとか、お世辞でも言うとか。気づくどころか、期待を込めた眼差しはこの人にはまるで通用しなかった。ダンダン、とじだんだ踏む神楽ちゃんを横目に、僕は黙って銀さんにティッシュとふきんを手渡した。



「勝手にキレてんなよなんでだよ!まずいもんはまずいんだよ!」

「うるせーヨ!」

「ああ!?」

「ほらほら二人とも落ち着いて下さい。ご飯冷めちゃいますよ」

「つかえない新八をたまには手伝ってやろーかなと思ったんだヨ!作ったんだヨ!」

「今聞き捨てならなかったんですけど、つかえないとか言われたんですけど」


今にも発火しそうな勢いの騒ぐ二人を止めようと仲裁に入った。だというのに、なんだろう。酷い言われようだ。僕は悪くないぞ、絶対。怒っている神楽ちゃんの八つ当たりをくらうのは、いつもいつも僕な気がする。



「神楽マジでおまえ作ったの?」

「そうっつってんダロ!!クッソ!」

「だから酢こんぶ臭かっ」

「銀ちゃんのバアアァアァアカ!いいもんネ!アタイが全部食っちゃうもんネ!」

「そーだそーだ、神楽おまえ自分で食べてみろ」

「神楽ちゃんの、それだよ」

「食ってやるからナ!銀ちゃんの分も新八の分も!」


大きな声で喚いて自棄になりながら神楽ちゃんは箸をまた握りしめた。いたたまれない。それから、ミシッという嫌な音がした。またか。こうなったら今度は頑丈な箸、源外さんに作ってもらおう。


僕がそんなことを考えている間に、神楽ちゃんは自分が作った料理を食っていた。どかどかと掻き込むようにして全て頬張る。んちゃんちゃいつまでも噛んでいる、と思ったら、ようやくごくんと飲み込んだ。神楽ちゃんのその表情が、答えを示していた。


「なにこれクソマズイ」


神楽ちゃんは真顔で皿を見つめながらぽつりとそう言った。


「だから言った」

「吐かないの、自分が作ったんでしょ神楽ちゃん」

「あああ新八は鬼ネ!鬼メガネ!」

「なんだよそれ!メガネだからなんなの!悪いか!」


また僕に八つ当たりして。食べ物を無駄にするなと常日頃言っているし、食うなと言ってもなんでも食う神楽ちゃんがこんな顔するなんて、味はよっぽどなんだろう。食べなくて良かった。正直に言うとそれは本音だ。


「定春ーあげるヨーおいでー」

「やめとけーいくらおまえでも腹壊すから」

「定春、逃げた方がいいよ」


この子被害者を増やす気だ。しかし定春は小さく鳴いて、食卓から少し離れた。それから、こちらに背を向けて床で丸まったのでほうと感心する。主人と違って賢い。



「…なあ、これは?」

「ああ……それは僕が作りました」

「うーん」

「あー」


一口食べて少し笑う銀さんになんだか安心する。神楽ちゃんも静かに食べ出した。そうだそうだ、僕の有り難みがよくわかっただろう。僕もやっと、ゆっくりご飯が食べれる。そう思って箸を握り直した。


「やっぱよ、新八のが一番まともだなー個性がないけど」

「そうアルなー個性がないケド」

「地味でかつ平凡だな」

「平凡アル」

「アンタら何様だよ!!だったら自分らで作りやがれ!」


そうだよ。やっぱりこいつらはこういう奴だった。僕の存在を有り難く思って、さりげなく褒めるとか、奴らには素直にできないんだった。意地が汚いし悪い。僕はうっかりしていた。



「わーメガネが怒ったヨー」

「…神楽ちゃん」

「…か、神楽テメーバカか!新八くん大人だから、ね、新八くんイケメーン!メガネの申し子!メガネキング!」

「おだてても無駄ですよ。ていうかそれ褒めてねーよ」


気付けば飯が冷めていた。しかし僕は、そんなのはお構いなしにもぐもぐ食べる。おいしい。おいしいじゃないか。「まったく新八はいつまで経ってもガキアルなー」と神楽ちゃんが言った。ふてぶてしさ全開だ。ムカついたので何か言い返そうと思ったら、その前に銀さんが神楽ちゃんの頭をスパン、と叩いて先程までの行動は棚に上げ、尤もらしく怒鳴る。



「おい!明日もおまえの飯食うことになるだろーが!ふざっけんな新八様を敬えバカ娘!」

「…す、スンマセン新八ィ」


やっぱりな。素直になれよもうここまで来たら。神楽ちゃんは口をすぼめてまるでタコみたいだ。ふざけている、これは絶対ふざけている。隣の親代わりが捻くれていたりするから、日を追う毎、其れに影響されているのだと思う。僕が見るに、二人はする事や態度がことごとく似ている。どんどん似てきている。


「神楽テメー謝る気ねーだろ」

「チクショー!この男二回も叩いたネ!女の敵!ハゲ!」

「うるせえな。俺ァまだハゲてねーよ!適当な事言うな!」

「もういいですよめんどくさい」


本当に調子の良い奴らだと嘆息しても止まらず、相変わらず煩く言い争っている。でも、やっぱりさっきのは悔しいから、明日はもっと気合い入れてご飯を作ろうと思う。この阿呆らしさがふいに大事に思えたのが、気のせいでなかったら良いな。なんて、二人には死んでも、墓の中でも、きっと言わないけれど。



/僕の家族達



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