いつこの想いを打ち明けようだとか、そんな事は何年も前から……いや、何ヶ月も前から考えていたのだけれど私は自分で思っているより駄目な女みたいです。行動に踏み切ろうと思っても、恥ずかしすぎて結局足が止まってしまうのがオチ。こんなに女の子らしい態度が自分にも出来るだなんて、この歳になって初めて知った。

初めてあの人に声を掛けられてから、どうも視線が離れなくて仕方ない。好きな相手にこそ話し掛けられないむず痒いこの気持ちがわかるだろうか。高杉辺りは、絶っ対にわかんないだろう。今なら好きじゃなかったベタベタの携帯小説も喜んで読めそうなくらいだ。雑誌の占いは欠かさずチェックしてしまうし、それに一喜一憂してしまうしで、人間は恋愛によって今までの自分がすっかり変わってしまう生き物、というのは真なのだと思い知らされた。或いは、見えていなかった隠れた一面が、ぽろりと出て来ただけなのかもしれない。



「…おーい」
「……」
「おいってば」
「わ!は、はい!」


思いがけず肩が大きく揺れ、持っていたカプチーノを落としそうになった。指先に力を入れ直して前を向く。悶々と考えていた坂田さんその人本人が、どアップで目の前に現れた。ただでさえいきなり声を掛けられたことに驚いたのに、彼だから余計に心臓が騒がしい。こんな至近距離だから心音とか聞こえてるんじゃないか、私がそんな風に気を詰めているのを知ってか知らずか彼は爽やかに笑っている。



「で、用って何?」


そうだ、私が休憩所に呼んだのだった。いつまでも自分自身煮え切らないのもなぁと思って、きょ、今日こそ告白だ!……なんてひとり意気込んでいたのだが、やはり彼を前にすると上手く喋れそうもない。酸素が足りない魚のように口がぱくぱく開閉するだけで、そこに声が追い着かない。もう十分にいい大人なのに情けなくなる。ここは潔く、正面から当たって砕けた方が良いのだろうか。いや砕けちゃ駄目だろう!



「おーい」
「え、あ、す、すみません」


また知らない間にぼーっとしていたらしい。不思議そうに、絶対耳まで真っ赤であろう私の顔を覗き込んできた坂田さん。これは計算なのか。わからないけれど、どちらにしても私が私じゃないような、知らない誰かに頭の中を操られているような、不思議でもどかしい感じだ。

こんな所を他の誰かに見られたら死ぬ、ていうか殺してしまう。特に沖田とか。だから、彼をいつまでもこんな風に困らせちゃ駄目なんだ。小さめに深呼吸ひとつしてカプチーノと坂田さんの甘い匂いを肺いっぱいに吸い込んだ。根拠も無ければ自信も無いが、よし、私なら出来る!



「っ、あの!」
「ん?」
「私、坂田さんの事が」
「……俺が?」
「す、す、すき……やき…」
「……え?」



やっちまった。脳内で誰かが怒声を発している。確かに、なに言ってんだろう、私。坂田さんが困っている、本当にとても困っておられる。とっさに出たごまかし方が、ベタすぎて単純すぎて、泣きそうで逆に笑えてくる。私の小さな恋は、すき焼きという食べ物のせいで終焉とみえる。顔が煮えたぎったように熱い。……すき焼きだけに。誰がうまいこと言えと!うわーん!


「なに?すき焼き?」
「あ、その……」
「うーん可愛い女の子に誘われちゃ仕方ねェな…食べに行こうぜ。デートだよデ・エ・ト」
「へ」
「良いよな?」



好き妬き?
10.01.10


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