今日は久しぶりに二人で落ち着ける時間が取れた。しばらくこんな風に過ごすことも無かったし、これが貴重な、正に穏やかなひと時と言うべき時間だ。平穏無事、なるほど。しばらくして、うーん、とかなんとか唸りながら抱き着いてきた彼女から同じ柔軟剤のにおいがした。ソファーの背もたれが沈む。少なからず驚いたり口角が上がったのは事実だが、暑苦しいので出来るだけやんわりと引きはがした。代わりに、不満そうな表情の彼女の頭を撫でてやる。髪型がぐちゃぐちゃになったにも関わらず、途端に良い笑顔になり俺を見上げた。相変わらずだ、と俺も何となく笑う。

「ねー」
「何だ?」
「私今日パンツいちご柄なんだよかわいい?」
「見てもねえのにそんな事言える訳無いだろ」
「見たいの?」
「いやっ、違うそういう意味で言ったんじゃねえ」
「わかってる。静雄真面目だもん」

唐突に自分のパンツの柄を伝える彼女の発言には、相変わらずだけれども矢張り慣れない。いや慣れたくない、慣れては駄目だろ。普通に返す時点で間違っている。流れでこんなアホみたいな会話をしていても、俺とコイツが付き合っている事には変わりは無いが、今日はいちご柄かよっしゃあサイコーだとか、俺が思うと思っているのか。お前の中で、俺はそんな奴なのか。やめてくれ。そもそも何を考えて言ってるのかがわからない。

「なんでわざわざ下着の柄を俺に教えるんだ?」
「えー…」

別に損はしないしお前は俺の彼女だし、なんの問題もねえが。いや、損しないっていうのは変な意味じゃねえからな。おい、なんでニヤニヤしてんだ。笑ってんじゃねえ。

「だって意識してほしいじゃんか」
「お、お前」
「静雄全然こっち見てない」
「……は?目ェ合わせてんじゃねえか」
「外での話。妬けちゃうねぇ」

なにやらどことなく回りくどい言い方をする。いつもばっさり本音を言う彼女にしては珍しかった。第一、俺はそういうの言い方が嫌いだし意味が不明だし気に食わねえ。訳わかんねえよ、と吐き出すと彼女は少し俯いてから、またこちらを見た。


「シズちゃん」


聞き間違いかと思った。その気持ち悪い呼び名の生みの親が一瞬脳裏によぎり、気分が最低の最低まで一気に下がる。再び聞き直すと、もう一度虫酸の走る言葉を口にしたので思わず睨み付けた。いくら呼ぶのが彼女だって俺もいい気はしない。

「あ゛ぁ?」
「コワイよその目!」
「だったらその呼び方やめろ。胸糞悪い」
「ごめん、いやあちょっとね、真似してみたというか」
「真似?ノミ蟲のか?」
「だってさぁ。ねぇ静雄」
「んだよ」
「臨也ばっかし追い掛けるんだもん」
「……は」


目を見開いた俺が彼女の茶色がかった瞳に映っている。僅かに開いた口からは情けない音が漏れた。それから少し拗ねたような表情の彼女にハッとする。くだらない、馬鹿みたいな事考えるな、と一言のもとに終わらせることもできたが、今はそれをしてはいけないと思った。でも少しなら俺にもわかる。別に、本当にそう思っているんじゃなくて、そうだ、暗に伝えたいんだろう。そうだといい。束の間の小康もこうして過ぎていく。いいじゃねえか。腕を引き寄せて、顔を胸にうずめさせた。無理矢理だったからか、ぐふっと潰れた声を出した彼女の表情が見えなくなったが、これでいいと思った。こうじゃなきゃだめだ。

「お前は前じゃなくて、隣に居るんだろ」

珍しく、うまく言えた気がする。


ストロベリーのおんなのこ
企画「Mr.デイリーライフの失踪」に提出
10.08.11


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