※白夜叉


 始まったものには、いつしか終わりが来る。それを知りながら、自分とは無関係であるかのように生きてきたんだろう。たとえ、本能ではプログラミングされていても、意識はしていない。俺達の命も親の親の親のずっと最初から、まあ顔は知らないけれど、とにかく色々受け継いで汚らしいモンも引き受けて、ちっこい何ミリだかわからない姿から始まったんだろう。

 姿は、神秘的っつうよりはグロテスクだったらしい。訳のわからん見た目だったんだろう。先には死が待っているってことも、解っていなかったのか。幸せの羊水にどっぷり浸かって生まれてきたとか、それは比喩でもなんでもないじゃないか。今じゃこんなに血みどろになっちまって、汚いのだ。


あの日の雪はあんなに白かったのに。


「ぎんちゃんの髪の毛みたい」
「…なに?」
「みて、降ってきた。キラキラして綺麗だねぇ」


そういえば、あのころ一緒に勉強していた真っ黒い髪のあの子の肌は青白かったことを思い出す。まるで切り取られたみたいに簡単に蘇る会話も、表情も、どこか遠くに置いてきた。

まさか少し時間が経っただけでこんな風に苦しむようになるなんて、思いもしてなかったんだろうな、俺。余りあった無垢を少しずつ擦り減らして、それでも、有り触れた光を知っていたのに、今ではどうだ。なにが希望で、そんなものはどこにあるのか。生臭い匂いに慣れたのは俺だけじゃあない、そんなことはわかってる。 俺は今日も、目の前の敵を斬った。悪いとか、悪くないとか、そんなことは今更だ。


「…バッカみてぇ」


 考え事なんて命とりなのに。

 静かな残骸を歩いて行くと、いつしか皆のところに戻ってきていた。くたびれた背中とみすぼらしさが溢れる。俺は血の臭いの息を吐いた。

最初は、これの何倍も、いたのにな。正しさってもんは、あの人に教えてもらったはずなのにな。なんで。そんなことを思ってみては、何がいけなかったのか思い返してみる自分がいる。残っている手の中にはすっかり不細工になってしまった刀がある。悲しいとか、そんな話ではない。未来、世界、希望、夢、現実の差異。肉も骨もじきにわからなくなってゆく奴らの無念と、しようがない理不尽は、何処に置いていったらいいんだろうか。全部、引き受けていくことが俺の出来る事なのだろうか。
ああ、痛ぇなあ。どこもかしこも。生きてるってこういうことか、ねえせんせい。目をつむったら、ぶわっと一気に怖くなった。あの子もせんせいも、もういない。眼窩に潜むかつての景色を、そうっとまた手繰り寄せてしまいたくなるのを必死に堪えた。再び瞼を持ち上げる。

 考え事は命とりなのに。

 空は曇っているのに、目の前が真っ白になるような気分だ。いつもいつも。せんせいは教えてくれなかった、命の色って何色だろう。それを、守りたかった。どこからか、ぎんちゃん、と俺を呼ぶ声がする。



10.12.01



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