なんでも出来る彼氏を持てて、私はシアワセである。とか、それは常日頃思っている事だが、だからといって甘えっぱなしは良くない。其れはわかっている。わかっていた、んだけど、ということです。



「なんなんだこの有様は」
「ごめん…」


反省しています。事の始まりは鴨太郎が出張で二三日家を空けただけで、我が家はインスタントフード天国になってしまったことにある。この家には私と鴨太郎しか住んでいないのだからもちろん、この私がそうさせてしまったのだ。今迄も鴨太郎が何日間かいない事はあったけれど、その頃はまだ初々しい二人だったので、私は必死をこいてよく思われようとそれなりに料理をしていた。だというのに、今となってはどうか。慣れって恐ろしい。



「ほんと、何て言ったらいいか…」
「まったくだな」


「足掻きもしなくなったヘタクソは最悪だ」って、鴨太郎がいつか言っていた。当時のその一撃は、こちらに向けてのものではなかったけれど、今は確実にわたしにぴったりのコトバである。悲しい。ごみ箱には空き容器がわんさかとある。だけどけして、家が汚くなったわけじゃない。掃除は好きだし洗濯物だって嫌いじゃないはず。ただ、料理が苦手。だから、いつも眺めているだけ。だから、私は非常に不健康きわまりない食生活を二三日間過ごしてしまった。だから、今鴨太郎に説教をくらっている。



「君も、料理くらいしたらどうだ」
「…そ、その通りで…」
「僕に頼るのもいいが、それだけでいいのか。あっという間に、君はひとりになったら生きていけないヤツになるぞ」



カーペットに正座をして、椅子に座る鴨太郎と向かい合う。この際二人の体勢の差は気にすべきではない。しかたがない。彼の眼鏡越しの眼光が鋭いのもしかたがない。学生時代にもこういう事があったな、と私はひそかに思い返していた。


「まず努力しようとしろ」
「はい…」
「眺めているだけでは身につくものだって身につかない。わかったか」
「ものすっごくよくわかりました」



言葉がずきずき刺さる。はぁ、と迂闊に溜め息なんぞついたなら、それこそ私の命は無い。眼鏡をくいっとあげて、彼がすらすらと私に投げた言葉はとても正しい。ひとつも間違っていない。反省すべきは、苦手を放置してどうにかやり過ごそうとしたバカな自分であるから当然だ。鴨太郎の彼女は、いつになっても学ぶことが多い。でも、それはとてもよいことだ。私はまた人間的に賢くなれるのだ、きっと。いや、ならなきゃだめだ。



「僕は君の健康がどうだとかいうつもりはないが、君は彼女なんだ、はやくに病気をしたり死なれたりしてては困る、僕が」
「…」
「だから、まずはカレー辺りから」
「は、はい!」


感動した。ビシィっと私に人差し指を向けた鴨太郎は、それからふうと息を吐いてちょっと笑う。やっぱり、鴨太郎はやさしい。胸が暖かくなって、正座で脚がぴりぴり痛んでいたのだって今ので吹き飛んだ…気がする。これからどうなるかは私次第だ。


「…君がその気なら教えてやってもいいが」
「え、ま、マジでか」
「どっちだ」
「ぜ、ぜひとも教えてください」
「容赦はしないびっちり覚えさせる」
「もちろん!」



愛に誓って頑張らせていただきますと叫んだら、鴨太郎は珍しく軽くうなずいてくれた。着替えてくる、と言って立ち上がった鴨太郎だけど、私はその後ろ姿を見て静かに笑った。やっぱり、耳がまっかっかなのだ。


flamingo pink.
10.11.29



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