「ううう、うわーん!」
「やめろ」
「…アナタがそんな人だったなんて!もう!」
「黙れ」
「クールなとこも素敵!」
「黙れ」



先程からふざけたひとり劇場を繰り広げている彼女。ちなみにここは俺の部屋で、俺は職務の真っ最中であり、即ちコイツも仕事をしなくてはならない。馬鹿みたいな痴話喧嘩ごっこ、をしている暇ははっきり言っても言わなくてもこれっぽっちも無い。この女は部下で俺は上司。つまりコイツの行為は職務放棄に値するわけで、取り敢えず何でも良い、凄く殴りたい。そうすればきっと一気にスッキリする。逆に今まで殴らなかった俺を誰か褒めてくれ。



「副長ーわたし劇団三季に応募してみようと思うんですけどー」
「書類審査落ちだな」
「辛辣!」
「…」
「なんかこう、お前なら出来るとか…ね!」
「だったら働けよ!!」
「えー」



無視し続けるつもりだったのにまんまと彼女のペースに引っ張り込まれてしまう。いつもいつもいつも 背中を向けていた筈なのに振り返って怒鳴り付けて、おかげで仕事がちっとも捗らない。ヤツを立入禁止にしてやろうと何度思ったことだろう。馬鹿のひとつ覚えみたいに不法侵入を繰り返す彼女でも、働く時は文字通り人が変わったように働く。そんな一面があるからこそ、むやみに追い出せないのも確かなのだけれど、これはひど過ぎる。




「わかったからもう総悟とか山崎のところ行けいや行くな駄目だ」
「どっちですか、副長」
「とにかく行くなよ絶対」
「…ほほう…」
「……なんだよ」
「それは独占欲ってやつですね副長」
「違うわ!!」




お前の身の危険を考えて言ってんだよ、とは喉の奥に飲み込んで我慢する。にやにやと擦り寄ってくる彼女からはイヤな予感しかしない。しかしまたそれを避けないのは観念したという訳ではなく、みっちり残業させよう、そう決めているからだ。あくまでもコイツは部下なのだ。



「あらアナタスカーフが」
「いや、おま、ちょっ」
「これで っと」
「……」
「ん、あれ?なんか顔赤いですよー」
「ななな何言ってんだよ」
「もうアナタったら照れ屋なんだから!」
「ふざけんな!斬る!!」
「やーコワイ」



いやその前に、なんと俺はこの奇怪な夫婦ごっことやらを満更でもないと思ってしまった。気が抜けてガクッと膝をつく。そんな俺に寄るこいつを振り払えない。毒されてくうちにとうとうおかしくなっちまったらしい。もう俺やってけない。フッ、どうか殺してくれ近藤さん。








10.06.14


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