それは遺書と呼ぶにはあまりに簡素であり、またこれ以上ないほど完全でもあった。


おやすみ


ノートの横罫、ページを一枚破っておいて、書いてあるのは一言だけ。

まるで眠る前に、家族や友人や恋人に、当然のごとくその言葉を告げるように。

ひどくやわらかな筆跡で。

そして、ふと、

「おやすみ」は、明日目覚めることを約束する言葉ではないのだ、と

気づいて。

泣きたいような、微笑みたいような。

嗚呼、

「もう一度だけ、あなたに逢いたいです」



(瞼の裏にて逢瀬)


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