1「突然勇者」



『タイトル未定のファンタジー』

「朝ですよ、起きなさい」

声と共にカーテンが開け放たれ、部屋に眩しい光が差し込んでくる。
まだ起きたくない、ベッドに潜り混んでまどろんでいたい。
そんな俺を優しく揺すり起こすのは、母さんだ。
自分で起きれるから入って来るなっていつも言ってんのにもう。
まあ起きないからなんだけどさ!

しかしこの朝の幸せなひとときが、あと15秒程しかない事を俺は知っている。
一見優しいこの女は、15秒後には俺の布団を勢い良くひっぺがして「いい加減起きろやボケ!学校遅刻するよ!」と怒鳴るヒステリー女に変身するのだ。

16年間、俺はこの人の息子として生きてきたんだ。
これくらい解ってる。

…とかなんとか言ってる間に、今日も予想通り布団が勢い良く剥がされた。

ヒステリー発動!

…の、はずだったのに。
起きぬけの俺に母が浴びせた一言は、いつもと違った。


「…勇者よ、起きなさい。出発の時刻が近付いていますよ」


…ちょっ朝からどんな設定!?
やめてよ〜も〜俺笑いの沸点低いんだから!!知ってっしょ〜も〜!
不意打ちの一言に爆笑しながら起きた俺は、まだまだこの世界の異変に、気付いていなかったんだ。



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