第一章最終話


小澤です。

僕は今日、大切な友人を…親友を、失った。
彼は、とっても素敵な人だった。しっかりしてて、笑った顔が優しくて、バク転が出来た。

まだ、友達になったばっかりだったけど、時間なんて関係ないって思った。
そう思えるくらい、彼…河合君は僕にとって大切な人だったんだ。
河合君…どうしてあんなことに…どうしよう、また泣きそうになってきちゃった…


「…小澤君、何かあった?」

「部長…」


声をかけられて振り向くと、美術部の部長が心配そうな顔をして僕を見てた。


「もしかして、泣いてる?何かあったなら、話くらいなら聞くよ」


そう言って、部長は僕に優しく笑かけてくれた。ダメだなあ僕、こんな優しい部長に心配かけて…


「あ、あの、ごめんなさい。ちょっと、辛いことがあって…あの…なんて言っていいか…あの…」
「ああ、無理して話さなくてもいいんだよ」
「…ごめんなさい」


僕がしゅんとしていると、部長は優しく笑った。
そして、言ったんだ。



「言葉にならなくても、君には絵があるじゃない。今の気持ちを、絵にしたらいいんだ。そしたらきっとすっきりする。」

「部長…!!」



そうだ。

そうじゃないか。




僕には絵がある。芸術がある。
河合君ともう会えないのは悲しいけれど、絵にすればいつだって。いつだって会える。
どうして気付かなかったんだろう。河合君はこんなにすぐそばにいるじゃないか。
僕のこころに、いるじゃないか!


「ぶっ部長!!ありがとうございます!!僕、描いてみます!!」


僕は描いた。描いて描いて、描いた。完成した絵を見た部長が、言った。


「…小澤君が何を想って描いたのか、詳しい事はわからないけど…この絵に描かれている少年…なんだか幸せそうだね」


…涙が出た。
僕のなかにいる河合君は、幸せなんだ。
本当の河合君は、幸せだったろうか。


「ぶっ部長っ…こ、この絵、僕のっ…親友なんですっ…でもっ…もう、会えなくなっちゃって…もう、天国に…っ」

「…!!小澤君…!」


部長は、泣きじゃくる僕の背中を
さすり続けてくれた。
そして、言ったんだ。



「…彼に、手紙を書いたらどうかな?」

「…はい!!!」


僕は書いた。
思いの丈をすべて手紙に書いた。

「書けました!!」

そしたら部長は、こう言った。


「そしたらさ、その手紙…天国の彼に届けようよ。さっきの絵を添えてさ、空に飛ばしたらどう?」

「はい!!!」


僕は飛ばした。


封筒に手紙と絵をいれて、手裏剣を投げるみたいな感じで空にむかって投げ飛ばした。
すごい飛んだなぁって手応えを感じた。


「すごい飛んだね!これならきっと、天国の彼に届くね」

「すごい飛びましたよね!?届くといいなあ…」


それから部長と僕は、手紙が消えた空を、長いあいだずっと眺めてた。
ずっとずっと、眺めてた。



ーーーーー

河合くんへ

小澤です。
突然お手紙を書いちゃって、ごめんなさい。
こんなに突然お別れがやってくるなんて信じられなくって、まだまだ河合君と話したい事がたくさんあって、手紙を書きました。
出会って間もないけれど、僕にとって河合君は、とっても大切な、親友でした。いまでも親友です。このさきも、ずっとです。
天国はどんなところですか?河合君のことだから、天国でもきっと、しっかりやっていけるよね。
あのとき、窓から飛びたった河合君は、キラキラしてて、まるで鳥のようでした。さっき、河合君の絵を描いていて、涙がこぼれました。部長が僕の描いた河合君を見て、幸せそうだねって言ってくれました。
天国は、幸せなところですか?
また、お手紙書きます。


ーーーーー


この手紙を、綿逆学園教師 白石学(31)が拾い、後日緊急職員会議 「心に闇を抱える生徒たち」が開かれたのは、また別のお話。



↓小澤君が描いた絵。
「河合君は鳥になった」




→あとがき


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