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「な、なんで俺が1番不快なんだよ」

しどろもどろになりつつも問いかけると、村上はゲハァとため息ともゲップとも取れるような息を吐いて、再び話し始めた。

「…腹立ってる癖に文句のひとつも言わねえで先輩にヘラヘラしたメール送ったとこ」

「それはもう、厄介ごとに巻き込まれたくない、から…」

どんどんしどろもどろになる俺。
言い訳で頭の中がこんがらがってる。

「は?そんだけ?そんな事で自分の気持ち誤魔化すのか?急に泣き出したり俺に八つ当たりしたりするくらいショック受けてるくせに?そんなんでお前いいの?」

…なんか、言葉が出ない。
村上って馬鹿の癖に、結構鋭い。
何を言えばいいかわからなくて黙っていると、村上が空になったコップを俺の方へズイッと差し出した。
慌ててそれを受け取る。

「お前が目を背けてる、一番大事な事、教えてやろうか?」

俺が、目を背けてる、一番大事な事…?
村上があまりに真剣に俺を見るもんだから、俺はとうとう目も合わせられなくなった。
一番大事な事って何だろう。
村上は、俺のどこまでわかってるんだろう。
何だかこの先を言われるのが怖い。
俺の中の何かが崩れてしまいそうな気がする。

…だけど、いつものパターンでくだらない事を言われるような気も、やっぱりする。
黒葬式の事とかかもしれない。
あ、多分それだ。
俺は黒葬式にファイナルアンサーをかけて、俺よりちょっと高い位置にある、村上の目を見た。

「覚悟決めたみたいだな。」

村上が、笑う。
俺はキッと村上を睨む。

勿体ぶりやがって!
さあ、黒葬式について語れ!


村上は、某億万長者クイズの司会者さながらにたっぷり間を置いて、言った。




「…俺さ、さっきから会話の合間合間にゲップしてたんだぜ。気付いてたのにツッコミ入れなかったろ?」



ちょ、

え??????



「…河合、自分の唯一のアイデンティティだけはさ、失うなよ…」

村上は悲しい顔でそう言うと、そのまま部屋を出て行った。




な、ちょお…


そっちかよ…



いやいや、そっちかよ…じゃねえわ!なんだよ唯一のアイデンティティて!アホが!腹立つわ!
なんでお前のゲップにツッコミ入れなかっただけでアイデンティティ失うとか言われんだよ!
ハゲが!くっだらねえ!
どうせくだらねぇにしたって黒葬式だろそこは!!
つーか黒葬式マジで怖ぇよ何されんだろ!!!ちくしょう小澤ぁ!のろい君めぇえ!!


…と、そこまで考えて、ふと気付く。


俺は、黒葬式が怖い。
でも、くだらない事だと思ってる。



…黒葬式より、俺が恐れているものって、何だったんだろう。
俺の中の何を、何が崩すと思っているんだろう。
なんで俺はいま、村上のくだらなさに、心底ホッとしているんだろう。




「…なんかもう、よくわかんね。もう考えんのやめよう。とりあえず、小澤君に連絡しないと」


俺は深呼吸をしてから、小澤君に無事を伝える…いや、黒葬式のキャンセル願いのメールを送ったのだった。


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