恩人?


…土の臭いがする。
でもそれだけじゃない。
…なんだか、良い香りがする。
じんじんと身体が痛むけど、暖かくて…

目を開けると、見慣れない天井が飛び込んで来た。
女の子向けの雑貨屋さんにあるような、可愛らしいシャンデリアのような照明。
首は痛くてあまり動かせなかったから眼だけを動かすと、可愛らしい飾り棚や、花柄のカーテンが目に入った。
そしてどうやら俺は、可愛らしいベッドに横たわっているようだ。

俺は確信する。

ここ、天国や…

天国って…女の子の部屋やったんや…



「…ってそんなわけねーだろ!!」
「うおおおっ!」
「!?」

俺の目覚めのツッコミに驚く声が聞こえて、慌てて起き上がると、身体がミシッと音を立てて腰に痛みが走る。

「っ…痛!」

「…ちょっ、大丈夫か?」

先ほどの声の主と思われる何者かが駆け寄って来て、優しく背中を摩られた。

「あ、すみませんどうもありが…」

とうございます、までは言えなかった。
なぜなら、お礼を言おうとして顔を上げた先に居たのは、まさかの美少女…いや女装癖…じゃなくて、変態の親衛隊隊長…雷風寺先輩だったからだ。

「ちょ、ど、えええええ!?」

「うるせっお前マジでうるせぇ殺すぞ!」

あああやっぱり口悪っ!瀕死の人間に対して口悪っ!ってか、え、状況が掴めないマジで!

「え、あの、すみません、ここ…え??ええ??ちょ、…えええ?」

混乱して上手く言葉が出て来ない。
これマジで殺されんじゃないかと焦りだけが募る。
あああやっばいこれ!一難去ってまた一難すぎる…どうすりゃいいんだと混乱していると、ふふっ、と笑い声が聞こえ、空気が緩んだ。

「ふははっ…てめぇキョドりすぎマジきめぇ」

口悪い…けど、楽しそうに笑う隊長はやっぱり可愛い…じゃなくて!

「ああああの、俺色々あって多分3階から飛び降りたと思うんです、けど、なんでここに…」

この身体の痛みからして、3階から飛び降りたのは間違いないだろう。
そしておそらくここは隊長の部屋なんだろうが、問題はなぜ俺がここに居るのか、だ。
良く解らないが、隊長も俺に危害を加えるつもりは無いらしいし、ここは落ち着いて隊長から話を聞くしかない。
ふう、と深呼吸して隊長を見ると、隊長は神妙な面持ちでベッドの端に腰掛けた。


「…あんたがさ、麗緒様の事、好きじゃないって、解った」

罰の悪そうな顔でぽそり、と隊長が呟いた。
え?と思って顔を見ると、ふいと反らされてしまう。

「…廊下から、全部見てた。あんたが三階から飛び降りるとこも見てた。頭おかしくなったのかと思った」

あ、あああ見られてた…そんで頭おかしいと思われた…いや実際あの時おかしかったけどさ!

「つーか、死んだかと思って、ちょっと焦って…急いで下に見に行ったら、あんたは花壇にぶっささってた。めりこんでたっていうか、とにかくすげえ上手いことぶっささってて、花壇から顔だけ出てた。花みたいだった…どうしていいかわかんなかった…」

た、隊長…てか、えええ…想像を絶する状況なんですけど、えええ…!?

「そしたら麗緒様の声がして…僕、あんたが麗緒様の事好きじゃないって解ったけど、麗緒様があんたを助けるのは、やっぱり嫌で…」

そこで隊長が口ごもる。
ああそっか、隊長が、俺を助けてくれたんだ…
変態と俺を引き離すためだったとしても、隊長が…

じわりと胸が熱くなる。
理由がどうあれ、俺だって変態に助けられてたらそれこそ終わってた。

「隊長…!」
「…うん、だからさ、とりあえず、僕あんたを埋めた。死ぬかな?と思ったけど、麗緒様に見付かる前に助けるとか無理だしさ…で、なんとか上手いこと埋めた時にちょうど麗緒様が来て、一緒にあんたを探すフリして…その時ちょっと手と手が触れ合っちゃって、なんつーかもう幸せすぎて…麗緒様が、あんたが部屋に戻ってるかもしれないから行ってみるって言うから別れてさ、僕とりあえず授業に戻って1限目受けて、何か忘れてるなーと思ったらあんたでさ。僕そういや埋めたわって。流石に焦って花壇に戻ってこっそり掘り返してここまで運んで来たってワケ。足引きずって運んだから色んなモンにぶつけちゃってさ、もしアザ出来てたりしたら許して。…うん、なんかさ、色々誤解してて悪かった」




ちょ……


え、この、


女装癖てめぇええええええええ!!!


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