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「きゃああああ成瀬先輩いいいい!」
「カッコイイー!キャアアア」
ああああもう、最悪だ。
教室中に黄色い悲鳴が響き渡る。
迫り来る不幸と耳をつんざくような声に眩暈を起こしそうになったその時、悲鳴を遮るように変態成瀬が優雅に右手を上げた。
「皆、暖かい歓迎をありがとう。本物の僕だよ、落ち着きたまえ」
途端、教室中が静まり返り、あれだけうるさかった悲鳴は「はぁぁ〜…」と感嘆のため息のようなものに変わった。
なんでだよ!いや静かになったのは有り難いけどなんでこんな変態の一言で皆落ち着くんだよ!おかしいだろマジで!
俺の脳内ツッコミを差し置いて、変態成瀬は更に言葉を続ける。
「…とりあえず、誰か状況を説明してくれないか。何故、僕の総一君がステージに立っているのかな?」
解せない、と言った風に指を顎に当て、優雅に首を傾げる変態。
ちょ、僕の総一君て何だよ!そんでステージって何だステージって。
そんな素敵なもんじゃねえわ!これは吊るし上げって言うんだよ!しかもお前のせいだぼけえええ!
「あ、あの、実は…」
変態成瀬の近くに居た小柄な生徒が、頬を赤らめながら状況を説明しようと口を開く。
すると変態はそれを遮る様にその生徒の口元に人差し指を押し当て、
「何も喋らないで…解ってるから」
え、ええええたった今お前が状況説明しろっつったんだろ!あと絶対何もわかってない!
「はい…!」
んでお前もはいじゃねえだろ!ダメだ、もうマジでダメだこの学校は!
俺がおなじみの大混乱を極める中、変態が微笑んだ。
そして両手を胸に当て、天を仰ぎ見る。
「…皆、本当にありがとう。総一君と僕を祝福してくれているんだね?」
え、ええええ…
もうどういう事になっているか本当にわからない…
とりあえずわかる事はマジでヤバイという事だけだ。
変態の思考回路は分からず屋とか勘違いとかの域を越えすぎていて、もうマジで病気としか思えないし、無駄に馴染んでるけどそのポーズも正気の沙汰とは思えない。
逃げる事も忘れて呆れかえっていたその時、天を仰いでいたはずの変態が人混みを掻き分け、円になっていた机をアクティブに飛び越えて、輪の中に入って来た。
そして、一歩一歩俺に近付いて来る。
本能的にヤバイ、逃げなきゃと思うのに、机と人に囲まれた俺には逃げ場なんて無くて…。
どうしよう、どうすりゃいいんだクッソー!
じりじりと迫り来る変態、じりじりと後ずさる俺。
一定の距離を置いたまま、変態がこちらに手を差し延べて、
「総一君。さあ、僕とワルツなどを踊ろう」
ワ、ワルツなどって何だよ!
ワルツ以外にも何か踊るのかよ!ってそうじゃなくて!
「お、おおお踊るかあああああ!!!っていうか、聞け!俺は、あんたの事、好きじゃない!!!」
い…言ってやった!
変態に怒鳴りつけたものの、焦りと達成感と変態への嫌悪感でパニックになっていた俺は、考えるより先に身体が動いていた。
…とにかく、冷静さに欠けていたのだ。
逃げなきゃ、という気持ちが強すぎたんだろうか、俺は変態に背を向けて走った。
助走をつけて机に飛び乗ると、クラスメート達が驚いて俺を避ける様に後退りした。
人が居なくなった先に、外が見えた。
外だ!逃げれる!そのまま俺は飛んだ。
………飛んだ先は、窓だった。
ここは、3階だ。
ヤバい!と思った時には、俺の身体はくるくると回転しながら、落下していたのだった。
……暗転。
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