決戦
「さあ、とうとう始まりました!河合総一君の運命を決める大一番!果たして彼はバク宙二回転を成功させ、クラス内での平和を勝ち取る事が出来るのか!?それともあだ名がうじ虫キングになってしまうのか!?司会進行はクラス委員長のこの私が務めさせて頂きます!」
一体これはどういう状況なんだ…
あれよこれよという間に、教室が決戦場と化してしまった。
教室の中心を丸く囲むようにして机が動かされ、円の中には俺だけが取り残されている。
コロシアム状態だと言ったら理解してもらえるだろうか…
俺を取り囲む机の外には、村上や小澤君、他のクラスメイト達が立っている。
呆然と立ち尽くす俺を差し置いて、クラスはすごい熱気に包まれていた。
「はやくやれー!」
「出来るもんならねっ!」
「皆さんお静かにっ!今からクラス委員長の私が開始の合図を…いって!ちょ、誰足踏んだの!いてっまたっちょおマジで痛いから!謝んなさい!」
大変だ…主に委員長が…
でも、同情してやる暇は無い。
もっと大変なのは、誰がどう見ても俺なのだから。
何だったら変わってやりたいくらいだわマジで!
…二回転なんて、出来る訳がない。
普通のバク宙すら、やった事がないんだから。
うわあああマジでやばい!やばいってこれ!
マジでうじ虫キング確定だこれ。
いっそ陰口叩かれてるほうがマシだったレベルだマジで。
最悪からもっと最悪に状況が変わる事ってマジであるんだなやっべええ小澤ちっくしょー小澤!!
「…河合!」
突然声をかけられて、ハッと我に返る。
振り向くと、村上が机の向こうで手招きをしていた。
近寄ってみると、村上は机越しに俺の肩に手を乗せ、真面目な顔で口を開いた。
「…お前がここに入学してきて、ダチになって、お前の事、俺は勝手に親友だと思ってる。」
「と、突然どうしたんだよ」
「いいから聞け。親友のお前が、クラスの奴らに陰口叩かれてる姿なんか俺は見たくない。だから見せてやって欲しいんだ。お前の本気のバク宙を。」
「村上…」
アホの村上が、真剣に俺を親友だと言ってくれた。
コイツは馬鹿でアホだけど、俺だって親友だと思ってる。
バク宙なんて…二回転なんてできっこないと諦めかけていたけど、親友の村上や小澤君は俺を信じてくれている。
だったら俺だって、俺を信じなきゃ二人に失礼だ。
「…村上、ありがとう。俺、やってみるよ。絶対成功させる」
村上の目を見て言った。
すると村上は、ゆっくりと頷く。
そして
「頑張れよ、河合」
俺の背中を押してくれた。
押されるまま、円の中心へと俺は歩みを進めた。
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SIDE 村上
河合が、ゆっくりと円の中心に立つと、今までうるさかった教室が、水を打ったように静まり返る。
…頑張れ、河合。
お前なら絶対に出来る。
ちょっと俺もテンション上がってて、うっかり二回転とか言ってしまったけれど、そんで言ってからもしかしたらバク宙じゃなくてバク転だったかもとか思ったけど、引くに引けない状況だったし、お前なら絶対…
いや、きっと…
おそらく…
……多分、大丈夫だろうと思う。
まあ、もし失敗してあだ名がうじ虫キングになってしまったらマジで最悪だろうけど、俺もまさか小澤君がうじ虫キングとか言い出すと思わなくてそこはほんと想定外だったし、その辺について俺は本当に全く悪くない。
っていうか逆に感謝すべきだお前は俺に。
うじ虫キングになったとしても、俺はお前と親友で居続けるつもりなんだから。
うん、なんていうか、
「河合………ホントごめん!」
俺は静かに呟いた。
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