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どうやら、俺が思っているより自体は最悪なようだ。
アホの村上の証言によれば、俺の靴箱には大量のうんこが詰められているらしい。
入学前に親に買ってもらったスニーカーもパアになったことだろう。
「あああもう、マジで最悪だ…」
「大丈夫大丈夫。最悪なのは今に始まった事じゃねーだろ!」
「村上てめぇえええええ!」
失礼すぎるだろコイツ!別に俺そんな最悪じゃねえわ!
最悪は今始まったばっかだわ!
イライラしつつ村上と教室前で雑談しているうちに、今日の日直がやって来て鍵を開けてくれた。
…ろくに喋った事もないクラスメートだが、何だかジロジロ見られた気がする。
おそらく、昨日の騒ぎを知っているんだろう。
成瀬って本当に有名人なんだな…先が思いやられる。
とにかく視線を気にしないようにしながら、席に着いて机に突っ伏した。
「…くん、河合くん!」
いつの間にか、少し眠ってしまっていたらしい。
ザワザワと騒がしい中で誰かに名前を呼ばれて目を開けると、そこには小澤君が居た。
目を擦りながら上体を起こすと、教室の中がシンと静まり返る。
や、やりにくい…!
「…小澤君、おはよう」
「おはよ!朝は急に出てっちゃってどうしたの?朝ご飯一緒に食べたかったのに…」
俺達の話を盗み聞きしていたクラスメート達が、小澤君の一言でざわめく。
"…どういうこと?"
"成瀬先輩だけでなく小澤君まで…?"
"…あんな平凡が…!?"
ヒソヒソと声が聞こえてくる。
どうやら、クラスメート達は俺が小澤君にまでちょっかいを出していると勘違いしているらしい。
俺は小澤君どころか変人にだって、ちょっかいなんてかけてないのに。
……ああもう、最悪だ。
ていうかめちゃくちゃショックで、なにも言葉が出てこない。
俺は、皆から嫌われて、この先の高校生活を生き抜いていかなきゃならないんだろうか?
「……………」
「河合くん…あの…えっと…」
小澤君にも周りの声が聞こえたらしく、俯いて黙り込んでしまった俺にどう声をかければいいか解らないみたいだ。
気を遣わせて、ごめん。
小澤君、ありがとう。
"…何か喋れよ"
"なんで、成瀬先輩が…"
ああ、まただ。
またヒソヒソ声が聞こえてくる。
"小澤君まで…"
"身の程を知れっての…"
"っていうかあいつバク宙出来るらしいぜ"
もうやめ…ん!?
"えっマジで?"
"マジマジ。すごくね?"
"それすげーな"
"見たくね?生バク宙見たくね?"
"見たい見たい!"
"よし、じゃあ俺頼んで来るわ"
「おい河合。」
すぐ近くで声がした。
顔を上げるとそこには、
「村上…」
「バク宙見せてくれよ。プロみてえなバク宙。二回転。」
二回転!?
えっ、ていうか、バク宙!?
俺出来るのバク転!お前何言っちゃってんのっていうか二回転!?
「いやバク宙は無…「やれるね。お前なら。」
村上…?
村上の目は本気だった。
すごく真剣な顔をしてる。
なんのつもりかは解らないが、こいつはマジだ。
っていうか二回転どころかバク宙とかやったことないし多分出来ても二回転とか絶対無理なんだけど、こんな真剣な顔した村上は初めてで、言葉がつまる。
村上から目が離せずにいると、村上がクラスメート達の方を向いて、大声を張り上げた。
「おい!今から河合がバク宙を見せてくれるらしい!しかも二回転だ!もし成功したら、こんなすげえ事出来る奴は学園中探したって河合しかいない。いやもしかしたら居るかもしんねーけど少なくとも俺は知らないね!だからよ、成功したら、お前ら河合の陰口言うの止めろよ。二度とな。」
教室中が、シンと静まる。
村上…お前…俺の事、庇ってくれてんのか?
ちょっと庇い方がおかしいけど、そうなんだよな?
…感動して涙が出そうだ。
「で、出来る訳ねーよ二回転なんて!」
「そうだそうだ!」
「もし出来なかったらどうするつもりだよ!」
クラスメート達から非難の声が上がる。
俺もすっげえ同感だ。だって二回転は出来ねえもの。
バク宙すらやったことねえもの!
すると今度は、小澤君が声を張り上げた。
「出来るよ!河合くんは出来る!絶対に出来る!」
小澤君…昨日今日仲良くなったばかりなのに、小澤君まで俺の事、こんなに必死に庇ってくれるんだ。
でも俺、マジでバク宙すら無理だから、ほんと気持ちだけで充分だよ、マジで。
でもすっごく嬉しい。
でも止めてホントマジで!
俺は涙目になりながら小澤君を見た。
俺の視線に気付いた小澤君は、小さく頷いて、
「もし出来なかったら…河合くんのこと…うじ虫キングって呼べばいい!!!」
おっ…
おっ、
…小澤ぁああああああ!!
とうとう、涙が零れた。
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