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「…さっきはごめんね、河合君。僕、ちょっとどうかしてて」
ようやく服を着た小澤君が、申し訳なさそうに俺に頭を下げる。
「い、いや、俺の方こそ怒鳴ったりしてごめんほんと…」
「愚かしい…」
いやあんたも謝ってくれ、つうかあんたこそ謝れよ!…なんて、口が裂けても言えないチキンな俺。とにかく、今は小澤君に聞くべき事があるのでのろい君はスルーだ。
「あのさ、俺が気を失ったあと、小澤君がここに俺を運んでくれたんだよな、ありがとう。…良かったら、何があったか詳しく教えてくれないかな」
「うん、あのね……」
小澤君の話はこうだ。
小澤君が騒ぎを聞き付けて廊下にやって来た時には、気絶した俺を抱きしめたまま離さない変人成瀬を中心に、ギャーギャーと騒ぐ生徒達で廊下はえらいことになっていたらしい。
慌てた小澤君が寮の管理局に連絡してくれて、駆け付けた管理局員によってなんとか騒ぎは抑えられた。
管理局員が変人と俺を引きはがしてくれた後、小澤君が俺を抱えて404号室に運んでくれたらしい。
「大変だったよ、成瀬先輩は河合君を離そうとしないし、他の生徒達はすごい騒ぎようで」
か、考えられないくらい恐ろしい状況だ。
「小澤君ありがとう…マジで」
いくらお礼を言っても言い足りないくらいだこれは。
そ、そうだ忘れてた!
「村上は!?村上はどうなった!?」
「村上君?僕が行った時には居なかったよ?」
ああああいつ逃げやがったな!要領良すぎるだろ!いや、いいんだけど。むしろ助かったけど。
…村上にも謝っておかないと。
「それより、あの手紙は本当だったんだね!成瀬先輩、河合君のことすごく大切そうにしてた。河合君の友達の僕としてはちょっぴり寂しいけど、お似合いだよぅ」
…え?
お、小澤君?
「い、いや小澤君、何言って」
「ライバルは多いだろうけど、でも、僕は二人を応援するよっ!とりあえず、さっきは色々と大変な状況だったから僕が河合君を引き取ったけど、成瀬先輩には404号室に居るって伝えといたからネッ!」
お、小澤ぁあああ!!
どういう風の吹き回しだ小澤ぁあああ!!
「朝一番に、ここに迎えに来るって言ってたよ!」
小澤君がバッチリウインクを飛ばして言った。
やばい。やばい状況は全然終わっていなかった!
とにかく朝までに俺はどうにかここを出なければならないらしい。
「も、ちょ、色々言いたい事はあるんだけど、今何時…?」
「もうすぐ6時だよ、ぼちぼち迎えに来るんじゃないかなあ?」
「それじゃ俺はここで!」
俺は急いで立ち上がると、小澤君が慌てて止めるのを振り切って404号室を後にした。
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