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変な汗が出て来た俺は、とにかく落ち着こうと深呼吸をする。
「ち、ちょ、ちょっと意味がわからないんですけど…」
いきなりキスされて、更にヘソの緒になりたいなんて意味不明な事を言われて平静なんて保てるもんか。嫌がらせとしか思えない。
すると変人の長い睫毛が、おじぎをするようにゆっくりと伏せられた。
「…どうして解らないのかな」
変人が少し傷ついたような、元気の無い声を出し、まるで俺が悪いみたいな空気が流れる。
…え、俺悪くないよな…?
「…な、なんか…すみません…」
悪くないとはわかっていつつも、この空気に耐えられなくなった俺はとりあえず謝る。
すると変人がはっとしたような表情を浮かべてこちらを見た。
「いや、違うんだ。謝らないで。謝らせたい訳じゃない。ただ、ひとつだけ言わせて欲しい」
「は、はあ…なんでしょう」
…ひとつだけって、あんたさっきから好きな事喋ってるだろうよと思いつつも、俺はとりあえず聞くことにした。
…どうせ断ってもこの変人は言うだろうし、ひとつだけ言わせて、さっさと帰って貰おう。
「僕は、君を愛してる。結婚してほしい。」
は…
はい!!??
な、何か今、とんでもない事を言われた気がする。
しかもひとつだけじゃなかった気もする。
愛…ええ?しかも結婚…?え、もしかして血痕?
「え、えっと…あの…えええ?」
すっかりお馴染みの混乱に陥る俺に、変人は深く頷いて、真剣な表情を浮かべ
「…わかっている。でも心配はいらない。海外に行けば結婚出来る国もあるし、どうしても日本が良いと言うなら最終は養子縁組という手もある。大丈夫だよ僕らならなんとかなる。」
いやわかってねえし大丈夫じゃねえしなんともならんわ!!
て、ていうかやっぱり結婚だった!え、ええ何言っちゃってんのこの人!
これはいくらなんでも止めないとまずい!
「ちょ、ちょっと待った!あ、愛してるって、あの、俺を?」
「そうだよ、僕は君を愛してる。そして君も僕を愛してる。だからキスをしたんだ。二人は結ばれて、そして僕は君の麗しいヘソの緒になる…誓うよ。」
な、何のお話でっしゃろか!!
病気だこの人!!!
…言葉を失う俺に、変人はさらに続ける。
「今朝の手紙は、いわばプロローグだ。二人が恋に落ち、キスをした所から、物語が始まる…予定が狂ってしまった箇所もあるけれど、とにかくもう物語は始まっているんだよ、総一君」
あああやっべ俺の知らない所で何かわかんないけどやばいのが始まっちゃってた!ていうかやっぱあの手紙プロローグだった!
「む、むむむ無理です俺!!」
俺がどうにか変人を止めようと言葉を紡いだその時、コンコン、と扉をノックする音が部屋に鳴り響いた。
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