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「さあ、いつまでもこんな所に居ないで、中に入ろう」
うなだれる俺の手を優しく握りながら、変人が言う。
当然のように紳士的にエスコートしてくれてるけど、ここは俺の部屋だよ!
…なんて言える元気も無かった俺は、いや、元気でも言えなかっただろうけども、とにかく疲れてしまった俺は、もうどうにでもなれと部屋に入った。
「何か飲もう。紅茶はあるかな」
部屋に入ってとにかく一息つこうとソファに座ると、変人がそわそわとキッチンに向かう。
いやあんたがそれするのおかしいだろ!
だけど、せっかくだし、まあいい…のかなあ…いや良かないけどさ、もうこの状況じゃ何言っても無駄か。
「…戸棚の、白い容器の中に入ってます。ティーバッグですけど。」
「ああ、これか。…へえ、初めて見る銘柄だ。特注品かな?」
えええ、日本で最もメジャーと思われるZabton(ザブトン)の紅茶ですけど!
何だよこの人本当に王子様!?何!?
そんな事をぐるぐる考えていると、変人がお盆に乗せた紅茶を運んで来て、俺にカップを手渡してくれる。
その姿はやっぱりすごく紳士的で、ちょっとカッコイイ。
「あ、ありがとうございます…」
「お礼なんていらない。お砂糖はどうする?」
「えっと、いや、いいです」
「そうか」
紳士的な変人はにこりと優しく微笑むと、さも当然のように俺の隣に座り、長い脚を組み、紅茶を優雅に飲み始めた。
…それだけの行為なのに、嫌味なくらい様になっている。
どうしたらこうなるんだろうか…じっと観察していると、その視線に気付いたらしい変人がこちらを見た。
「…ん?」
やっべ、俺見すぎてたかも。
急に気恥ずかしくなってそっぽを向くと、変人がふふっと笑ったのが聞こえた。
…え、何だこの感じ。
すっごい恥ずかしいんですけど!
「総一君。」
不意に名前を呼ばれてビックリして振り向くと、目の前に綺麗な顔があった。
ま、睫毛長ぇ…見れば見るほど深みを増す、不思議な瞳の色に、うっかり俺は見とれてしまった。
すると、唇が薄く開き、まるで歌うような綺麗な声で、
「…僕等の物語は、今始まるんだね…」
え、何言ってんのこの人!?!?
ぎょっとしたその時、唇に柔らかいものが触れた。
それがキスだと脳が理解した瞬間に唇は離れ、その唇が再び歌うような綺麗な声で、
「ララララ〜…フフーン…♪」
あああ歌だった!歌うようなっていうか歌だった!
って…
そうじゃないだろ!お前も俺も!
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