悪霊か怨霊か


「はあ、はあ…」

廊下を一気に駆け抜けて、息が苦しい。地獄の懺悔室こと404号室から逃げるように出て来た俺は、ようやく自室の前にたどり着いた。
…もう大丈夫だ。
食ったばかりで全速力で走ってしまったせいか、横腹が痛い。
今日はなんだか、逃げて走ってばっかりだ…本当に俺は呪われてるのかも、なんてネガティブになりながらも、ドアノブに手をかけて扉を開く。

…すると、暗い部屋の中に、ゆらゆらと動く人影があった。

ドクンと心臓が跳ねる。

俺の同室者は、先日運悪く事故に遭い現在入院中で、ここに居るはずが無いのだ。

『君は、厄介な物に取り憑かれてしまっている様だ…』
『部屋にだけは戻るんじゃない』

のろい君の言葉が脳を過ぎる。
う、嘘だろ…嘘に決まってる!
呆然と立ち尽くしていると、カーテンの隙間から差し込む光に照らされて、その人影の顔が見えた。

…それは紛れもなく、変人成瀬だった。


「!?!?」

急いで扉を閉める。
幽霊だったりしたらとんでもなかったがこいつはこいつでとんでもない!

扉を閉める瞬間、変人がこちらに気付いて嬉しそうな顔をした気がするのがまた気持ち悪い。

…これはそうだ、幻だ。

全くどうしちゃったんだ俺は。
今日は色んな事があったから、きっと脳が混乱しているのだろう。幻を見るなんて、やっぱりのろい君の料理に何か変な物が入っていたに違いない。
困った困ったほんと困った。
心を落ち着けて、もう一度扉を開いた。

「おかえり…待ってたよ、ずっと」

今度は扉のすぐ前に変人が居た。
…俺はそうとう疲れてるみたいだ。もう一度扉を閉めようとしたら、変人がそうはさせまいと足を扉の間に挟み込みそれを阻止する。
「ちょっ…おかしな幻だなぁ…!」「痛い痛い、僕の長い足が…」

幻のくせにナルシストだよ!うおおお扉よ閉まれえええ!
挟まった足なんておかまいなしに思いっきり扉を閉めようと力を入れると、幻の変人は「ビキャクッ!」と悲鳴のような声を上げた。
…えええ、今悲鳴ついでに美脚って言った?どこまでナルシストなんだよ!と心の中でツッコミを入れた瞬間力が緩んでしまい、扉が思いっきり開いて反動で俺は廊下にすてんと転んでしまった。
…俺は幻に押し負けたのだ。

「…いてて…」
「!!…大丈夫かい?」

幻の変人が慌てて俺に近寄って来て、手を差し出してくれる。
足が痛いのだろう、少し歩き方がぎこちない。

「あ、ありがとうございます…」
「怪我は無いね?」
「だ、大丈夫です」

素直に手を取ると、確かな温かさがそこにはあった。
そして俺は核心する。

「え…これ…現実…?」

「ふふ、可愛い子だなあ。本物の、僕だよ」

ああああ…俺はもうどこからツッコんで良いかわからず、ただただうなだれた。


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