俺の憂鬱


「で、お前は何をそんなに慌ててんの?」

村上が冷蔵庫から出した烏龍茶をぐいっと飲みながら、眠そうな声で言う。


あれから、気が付いたら俺は寮に居た。

…気を失ったとかではなくて、便所で急に変人に抱きしめられて混乱状態に陥った俺は、我を忘れる勢いで思いっ切り逃げて来たんだ

「でえええええい!」と叫びながら力の限り成瀬と名乗った変人にタックルをかまし、とにかく走った記憶だけが残っている。
どこをどう走って来たのかはわからないが、上履きで寮まで戻って来てしまったあたり、本当に必死だったんだなあ、俺…

しかも、洗いきれなくてまだべとべとしている手が気持ち悪い…。

でも今はそんな事よりも大変な事が起こっている。
今朝の手紙の差出人は成瀬本人で、さらに受取人は俺で間違い無かったという事実が判明してしまった。
さらに成瀬という男は変人で、そしてどういう訳か俺は目を付けられてしまったらしい。
あの変人が俺に何を求めているのかはさっぱり解らないが、とにかく面倒は避けたい。

…まずは、村上にでも話を聞いてもらおうと思って、今こうして村上の部屋に居る訳だ。

「えらい事になったんだよ。手紙の差出人、成瀬本人だった」

「お前、冗談言うならもうちょっと内容練って来いよ、面白くねえなー」

村上は俺が冗談を言っていると思っているらしく面白くなさそうに肩を落として、まだ眠り足りないのか、大きな欠伸をひとつした。こいつ、あんだけ寝てまだ眠いってちょっとどっかおかしいんじゃないのか。

「マジなんだって。成瀬ってあれだろ、金髪で男前の!俺特殊な因縁付けられたんだって!便所で手洗ってたら…」

とにかく村上に便所での出来事を一部始終聞かせる。
が、村上の反応は微妙なもので、あげくの果てには

「お前な、あの成瀬先輩がそんな変人な訳無いだろ。俺の気を引きたいからってそんなつまんねー嘘ついて…お前どうしちゃったんだよそんなに俺が好きか…困るぜ」

お前こそどうしちゃったんだよ気持ち悪いな…

「お前に話した俺が馬鹿だった。一生困ってろ!せいっ!」

ムカついたので村上の手をベットベトの右手で思いっきり握ってやる。

「うわっ何すんだよ!つーかえええお前手ぇベッドベトじゃねえか!きしょくわる!最悪だ…ん?何これちょっと甘い」

「えええ舐めちゃったよ!!」

ベッドベトが感染した自分の手を舐める村上があまりにも気持ち悪くて、俺はうんざりと肩を落とした。


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