ナルシスト


教員室から出た俺は、とりあえずベットベトになった手を洗うべく、近場のトイレに駆け込んだ。

じいさん…いや、人生の師匠から貰った男のポリシーの塊こと飴玉をどうするべきかで少し悩んだが、もう一度食べるのは普通に気持ち悪かったためゴミ箱に捨て、手を洗う。

その時だった。


「みつけた」

「うおわああああ!」


後ろから急に声をかけられて、驚いて振り向く。
するとそこには、まるで絵本の中から出て来た王子様のような、美しい人が立っていたのだ。

透き通るような金色の髪のその人は、恐ろしい程に整った顔付きをしている。
少し眠そうにも見える三重瞼はどこかはかなげというか、中性的な雰囲気があるのに、その奥にある、まるで宝石のような青緑色をした瞳には不思議な力強さがあった。
しゅっと通った鼻筋と、上品な口元…とにかくその人には非の打ち所が無くて、便所の手洗い場に立っているのが不自然に感じるくらい美しい。

その人は、俺を見て少し目を細めた。
動作のひとつひとつがのんびりと、自信に溢れていて、まるで時間が止まった様な感覚に陥る。

美しい金色の髪が、風も無いのにサラリと揺れた。
…その理由が彼が動いたせいだと気付いたのは、彼がいつの間にか俺の目の前に居て、さらに俺の頬を優しく撫でたからだった。
それ程までに、俺はこの人に魅入られ…って、ええ!?


「わああ、な、なんすか!」

きょどりすぎて声が裏返ってしまった。
そら、こんな男前がいきなり触ってきたらビックリするわ!っていうか男前でなくともいきなり触ってきたらビックリするわ!


「…ずっと待ってたのに、なかなか来ないから、心配してたんだよ」

「え…?は…??」

言ってる事が良くわからなくてさらにきょどってしまう。そんな俺の反応が気に入らなかったのか何なのか、男前は呆れたようにふう、と小さくため息をついた。

「…ごめんなさいは?」
「はい?」
「悪い事した時は、謝らなきゃダメでしょ?」

え、えええ…何か謝罪求められてるよ俺!
俺何もしてねーよ!どっちかっつうと俺が謝られるべき状況だよ!
便所でいきなりすごい男前に意味不明な絡まれ方をされたあげくため息をつかれて更に謝罪を求められる状況ってなんだよ!

でもとりあえずここは謝っておこう長いものには巻かれておこう。
俺はぺこりと頭を下げて


「あの、なんか、どうもすみませんでし…」
「やっぱり謝らなくていい!」


えええ何だよこの人ー!お前が謝れっつったんだろー!
謝った途端それを遮るように放たれたまさかの言葉にびっくりして顔を上げると、何故かすごく辛そうな顔をした男前の姿があった。
な、なんだよ!なんか俺がすごいひどい事したみたいな気になるじゃんか!俺は謝ったよ!


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