女装少年。 罰ゲーム(前半戦) (9/14) だんだん人が増え始めた人込みを抜け、切符を買って駅の改札へと向かう。 ここまで来る途中に、一つ、気づいたことがある。 去年まで同じ学校でいつもそばにいたからか気づかなかったけど、亮はどうやらめちゃくちゃモテるようで、擦れ違う女の子のほぼ全員が俺たちを振り返った。 そのたびに、最初は、ばれないかとびくびくしてたんだけど、だんだん腹が立ってきた。 振り返った女の子の表情は、俺を見て『なにこいつ。女装なんかして気持ち悪い』じゃなくて、俺の方は少しも見ていない。 ほぼ全員が全員、亮に見惚れていて、それに気づいてからは何故だかいらついて仕方なかった。 改札を抜けてすぐ。 お目当ての電車は、目の前に停まっていた。 「あれ、遥ちゃん。どうしたの?」 手を繋いだままで乗り込んですぐ、亮がそんなことを聞いてくる。 無言で、ふいっとそっぽを向いてやった。 「――ぶっ」 どうやら無意識に頬を膨らませていたようで、亮に摘まれた両頬がぷーっと間抜けな音を出す。 「ぶははっ」 ご機嫌な亮は大声で笑って、周りが何事かとこちらを振り返った。 むかつきがなかなか治まらない俺は、亮から少し離れてポールを握る。 本当は今すぐにでも家に引き返して、寝転がってテレビでも見てたかった。 これってさ。 実は、俺にとっては初めてのデートで、なんというか……。 ちょっと楽しみにしてたのに。 そんな俺に気がついたのかどうだか、亮が俺の背後に擦り寄ってきた。 「ハル。ごめんって。ちょっと調子に乗りすぎた」 いまさら言っても遅いっつの。 女装してるってだけで、こっちはむちゃくちゃ恥ずかしいのに。 亮は、俺のご機嫌を取ろうとでもするように、背後から腰に手を回してきた。 その仕種が、めちゃくちゃ慣れてるようで、更にいらいらが強くなる。 (――ちゅ) 「…ばっ」「しーっ」 な、な、な。 なにすんだ、ぼけーっっ! きゅっと肩を引き寄せられたと思ったら亮のやつ、俺の耳の後ろにキスしやがった。 そんなことは女にやればいいだろうと言いたかったけど、すぐ近くにバーコード頭のオヤジが座っているから、声は出せない。 いつの間にかポールと電車の壁に挟まれた、狭い空間に俺たちはいた。 俺がすねて亮を避けているうちに、どうやら、いつの間にかここに追い込まれたらしい。 prev|next 9/38ページ PageList / List / TopPage Copyright © 2010 さよならルーレット Inc. All Rights Reserved. |