女装少年。 罰ゲーム(前半戦) (8/14) 時間はぎりぎり朝マックに間に合う時間帯で、店内に入った早々、 「げっ」 「どうした?」 (やばい。忘れてた) 不吉なものを目にしてしまった。 「…カウンターの一番右」 「ん?」 「…クラスメート」 極力、声は出さないように、できるだけ小声で亮に伝える。 駅前のマックでバイトしてたのは知ってたけど、男だから裏方だとばかり思っていたのに。 運悪く、カウンターの一番右に立つ、クラスメートの香取を見つけた。 香取を避けようと亮を引っ張って左端のレジに行こうとしたのに、 「ちょ、アキ!」 反対に、右端に引っ張っていかれる。 「声、大きいってば。遥ちゃん」 そう言われて慌てて口をつぐんだけど、すぐに俺たちの順番が回って来た。 「そうだなあ。俺はAセットに飲み物はアイスコーヒーで……、遥ちゃんは何にする?」 ば、ばか! 俺に振るんじゃねえ! 声を出さずにうつむいたままの俺に少し笑って、 「本当に遥ちゃんは恥ずかしがり屋なんだから。まあ、そこが可愛いんだけどね」 香取の前で小ネタを演じながら、 「彼女もAセットで」 なんて、勝手に俺の分まで注文しやがった。 「ちょ、アキっ」 「なに。Aセットじゃない方がよかったか?」 そうだよ。 Bセットがよかった……、って。 そんな問題じゃねえ! ばれたらどうすんだと文句を言ったら、絶対にばれないよと亮に太鼓判を押されてしまう。 まあ、確かに、ガラスに映る自分を見ても自分じゃないみたいだけど。 それでも、いつなんどきばれないとも限らないだろうが。 ボケ。 ……ってか俺って、こんなに口が悪かったのか。 実際に声に出せない分、心の声が何故だか毒舌になってしまっている。 さすがは日曜日だけあって、他にも俺や亮のクラスメートと遭遇しながら、俺たちはなんとか遅めの朝食を食べ終えた。 「さて、と。それではぼちぼち行きましょうかね。お姫様」 「っっ、ばっ」 店を出る時に右手を握られて、思わず声を上げてしまった。 そしたら、亮の目が『王様の命令は?』と言っていて、その歯痒さに唇を噛む。 (くっそー、亮のやつ。あとで覚えてろよ) 心の中で呟いて、手を引かれるままに亮の後を追った。 prev|next 8/38ページ PageList / List / TopPage Copyright © 2010 さよならルーレット Inc. All Rights Reserved. |