犬小屋の鍵、貸します。
犬小屋の鍵、貸します。

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物心がついた時から勉強以外の全てを取り上げられていた俺にとって、想像することは唯一の娯楽だった。
家庭教師が帰って、世話役の柿原もいない僅かな時間、いろんな妄想をするのが楽しかった。

だから俺は想像してみる。
あの時の彼は目の前の男では断じてなく、俺の理想のタイプだの男だったと。

年下のわりに頼もしくて落ち着いていて、でもたまに甘えてきたり。
少しの嫉妬も萌えポイントで、彼にヤキモチを妬かれたい。


長い渡り廊下で、友達と笑い合う彼と擦れ違った。
無邪気な子供のような笑顔を見せるのに、初めて聞いた声は少し低めとか、これもポイントが高い。

「うそぉ。マジで?」
「マジマジ」
「うそやん。そんなん絶対、有り得へんし」

…あー、そっか。
関西弁だった……。

その無邪気な笑顔は可愛くもあるけど、関西弁は、理想にしてはどうも違和感がある。

つくづく惜しいなあ。いろいろと。
それより何より、ほぼ百パーセント、ノンケだろうし。


前の学校が中高一貫教育の男子校だっただけに、それなりにいろいろと経験がある。
それでもノンケだけには恋をしても虚しいだけだし、恋愛対象からは意識して外している。

まあ、いっか。
この学校は高卒の肩書を得るためだけに卒業するだけだし。
残りの数ヶ月、ただ何事もなく過ぎてくれればそれでいい。

それより真横を擦れ違う時、その身長の高さに驚いた。
俺は170センチ少しと標準なのに、そんな俺より顔半分くらい背が高い。

顔を真正面から見ようとすると、間違いなく上目使いになるだろう。
なんとなく、そんなことを考えながら教室へ向かう。

(……あ)

なんだろう。
擦れ違った瞬間、なんだか甘い香りがした。
スポーツマンらしく汗のにおいがするかと思いきや、例えるならば、お菓子のような。


名前、なんていうんだろ。
二年生だよな。多分。

好みじゃないとか言っときながら、何故だかとても気になった。
おそらく、チャラ男のくせに、そのわんこのような笑顔に惹かれた。

だけど、平凡を装いたい俺とは真逆の人間だし、間違いなく接点もないだろう。

「ごめん。俺、好きな子おるから」

そう思っていたのに、突然、その日はやってきた。



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