犬小屋の鍵、貸します。
何度も貴方に恋をする

(8/8)

そんなことをいろいろ考えていると、またこの場を立ち去ろうとする。

「ちょお待って!…また、ここに来る?」

その手を引いてそう聞いてみれば、

「…気が向いたらな」

ぶっきらぼうだけど、そんな返事がもらえた。


なんでそのまま先輩を帰さなかったのか、今になって思えば、屋上でしか会えないような、なんとも言えない奇妙な思いがあったからだろう。

「あ。おまえ、名字は?」
「あ、え。米倉」

そしたら名字を聞かれて、胸がどきっと小さく跳ねて、

「じゃあな。米倉」

そう言って今度こそ階段を下りて行く背中に、

「先輩。先輩が来るの、毎日でも待ってるから!」

思わず叫んでしまった。



「…はあーっ」

先輩が立ち去った後、壁にもたれて、そのまま床にへたれ込む。
階下に消えた先輩を追い掛けたい気持ちがなかったわけじゃないけど、何故だか追うことはできなかった。

「律先輩、か」

そんな名前だったんや。
実は昔々、先輩に会ったことがある。
まだ俺も子供やったし、名前も何も知らんかったけど。

「一目惚れ、かな」

つまりは二度目の一目惚れだ。
子供の頃に会った先輩に一目惚れして、また再会した先輩に見惚れた。


しばらくそこでぼーっとして、気が済んでから階段を下りる。
とっくに5時間目の授業は始まっていたから、それが終わってからでもよかったけど。

「なんや、米倉。どうせならまるまるサボってもよかったのに」

どうせいまさら教室に戻ったとしても、こう言われるのはわかり切ってるからね。


そんな笑えない冗談ににへら笑ってごまかして、自分の席に着く。
くすくす笑いはすぐに収まって、退屈な授業が再開。

それから数分もしないうちに、5時間目終了のチャイムが鳴った。



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