犬小屋の鍵、貸します。 何度も貴方に恋をする (6/8) 校舎の階段を上り切った場所にある重い扉を開けた向こう側。 あいにくの曇り空で薄暗かったけど、天気がいい日は陽射しが気持ち良さそうだ。 確か、数年前に転落事故があって以来、立入禁止になってたんちゃうかな。 なんて、のんきに考えながらドアを開けて屋上に出る。 「えっと、ですね」 「うん」 なんとなく、この後の展開が想像できた。 彼女は俺が好きだと噂になってる子で……、なんというか。その、ね。 目の前の彼女は耳まで真っ赤やし、これはもう、あれ以外には考えられへんよね。 案の定、 「先輩のこと、好きなんです」 聞こえるか聞こえないかのか細い声で、そんな風に告られた。 「ごめん。俺、好きな子おるから」 即座に用意したように返して、 「ごめん!」 もう一度、謝る。 好きな子っていうか……、好きな人がおるんはほんまやし、彼女には悪いけど、その気持ちには応えられへんし。 別にまだ『付き合ってください』な展開になったわけじゃないのに先手を打てば、 「あっ、あの。いいんです。謝らんといてください。うちが勝手に好きなだけやから……」 彼女は健気にもそう言うと、 「好きって伝えたかっただけですから。先輩の恋。うち、応援してます」 精一杯の笑顔を見せた。 女の子って強い。 なんで、この場面であんなに綺麗に笑えるんだろう。 俺が彼女の立場だったら、負け惜しみに何か捨て台詞でも残して、しっぽを巻いて退散するかも。 「それじゃ、先に戻ってますね」 そう言って彼女が踵を反して駆け出した瞬間、とうとう重苦しい雲が泣き出した。 多分、彼女も泣いてたんやろうな。 精一杯の笑顔は今にも泣きそうで、そう考えたら胸が痛かった。 だからと言って彼女の思いに応えられない以上、気を持たせるような態度を取る方が人として、あれだ。 そんなことを思いながら、彼女の姿が完全に消えて数秒してから屋上の出入り口へと向かう。 「はあ……」 溜め息混じりにドアを開けたら、 「あ」 向こうに人がいた。 出合い頭に軽くぶつかった瞬間、 「え…、ちょ!」 その人、彼は俺の腕に掴まって、そのままその場に崩れ落ちた。 prev|next 56/58ページ PageList / List / TopPage Copyright © 2010 さよならルーレット Inc. All Rights Reserved. |