犬小屋の鍵、貸します。 何度も貴方に恋をする (4/8) テスト期間中は朝のホームルームもなく、先生が教室に入って来てすぐにテスト用紙が全員に配られる。 午前中で終わるこの時期は、早く家に帰れて有り難い。 配られたテストは案の定、ちんぷんかんぷんで、 「わっちゃー……」 思わず、そんなベタな声を漏らしてしまった。 うーん。 今回も赤点と追試決定やな。 どうしよ。美空にでも勉強、教えてもらおかな。 美空は一般で入試を受けて、普通に合格してうちに入学している。 おバカな、バスケをやるためだけに入学した俺とは違って頭もいいし、兄思いの自慢の妹やねん。 …ん、と。 テスト前に教えてもらえよってツッコミは無しの方向で頼んます。 なんちゅーか、俺自身も、そう思ってるからね。 だったら最初からやれって野次が飛んで来そうやけど、なんでか毎回、こうなるねんな。やから、俺のこと、考えなしって罵(ののし)ってもええよ。 あいにく、俺はMちゃうから、喜ばへんけど。 取りあえず、わからないながらも名前だけは書き込んだ。 もう十年以上も書いてきたそれを。 『米倉大地』 それだけ書いて、ペンを持つ手が止まる。 さてどうしよう。 この答案用紙の裏に落書きでもしよかな。 数学のテストは始まったばかり。 まだまだ、たっぷり時間はある。 結局、答案用紙の上をペンが滑ることはなかった。 なんというのか、穴埋めのクロスワードパズルのいくつかが、なんとか埋まったって感じ。 あちこち虫食い状態のそれを机に伏せて、机の上にうなだれる。 ゆっくりと瞼を落とすと、途端に睡魔に襲われた。 だんだん気温も上がってきてるのに、それより運動後の心地よい疲労感が勝ってるんかも。 睡魔に負けて、寝てしまおうとしたけど、 (――ぐう) 「あ」 眠りは、腹の虫に邪魔された。 周りを見渡せば誰もが真剣な顔で答案用紙に向かっていて、ペンが滑る微かな音だけが聞こえてくる。 いつもならここで、教室中に、くすくす笑いが広がるとこやけど、さすがにテスト中はそうではないらしい。 休み時間にカップケーキでも食おうかな。 昨日の晩、初めて作ってみたラスベリータルト。 カップケーキというか、アルミのカップを容器にしたパイやね。 美空のリクエストで初めて作ってみたけど、案外、うまくいった。 甘さが抑えめで甘党の俺には物足りへんけど、甘いのが苦手な人でも食えるかも。 結局、余った時間はそんなことばかりを考えて時間をつぶした。 prev|next 54/58ページ PageList / List / TopPage Copyright © 2010 さよならルーレット Inc. All Rights Reserved. |