犬小屋の鍵、貸します。
犬小屋の鍵、貸します。

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……と、ここで綺麗に終わってもよかったんだけれど。
この話には、まだ続きがある。


――後日談。

あれから何日かが過ぎ、ようやく長かった梅雨も明けて夏らしい陽気になった。
あれからわんこの暮らす犬小屋に戻った俺だけど、相変わらず昼休みもわんこと二人、屋上で過ごしている。

梅雨明けの空の青が眩しすぎて、なぜだか目を開けていられない。
夢とも現(うつつ)とも判断がつかない空間を漂いながら、屋上の入口にあるドアが開く音を遠くに聞いた。

「律先輩。もしかして四時間目、サボりました?」
「…んー」

四時間目の授業が終わって、息せき切ってやって来た米倉。
仕方ないなあとふにゃっと笑って、いつものフェンスの前に寝転がって、うたた寝をしている俺のとなりに腰を下ろす。

あれからお互いにたくさん話をして、俺の知らない米倉のことをたくさん知った。
俺のこともできるだけ米倉に話し、お互いにお互いを知ることで空白の時間を埋めていく。

「先輩、俺ね。先輩とここで出会う前に、実は、もう既に先輩に一目惚れしてたんですよ」

あの日、照れ臭そうに頭を掻いた米倉のその一言に一瞬、胸が跳ねて、俺は米倉の言葉に耳を傾けた。



実は、米倉の父親は関西圏では断トツのシェア数を誇る不動産王で、東京での全国規模の会合が開催された時に父親に連れられて上京し、その時に父親の同業者の男、つまりは俺の父親に連れられた俺を見掛けたのだそうだ。

「律先輩、伊達眼鏡を掛けて顔隠してるから最初は確信が持てなかったんやけど、先輩の眼鏡をこっそり外した時にそれに気付いて」

そう考えると三度も先輩に一目惚れしてるんですよと笑った米倉の言葉に、俺は自分の耳を疑った。

それから、米倉の実家は某高校から電車で二時間近く掛かる場所にあり、進学とともに、妹の美空ちゃんと父親が管理する今の部屋で二人暮らしを始めたんだそうだ。

その美空ちゃんは独身女性専門のマンションで念願の一人暮らしをするために、二人で暮らしていた部屋を出ていった。



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