犬小屋の鍵、貸します。
犬小屋の鍵、貸します。

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「……は?」
「ん?」

一瞬の間に米倉が言い放った言葉の意味を考えてみるけど、やっぱりよくわからない。

「…ちょっと待て。米倉。おまえ、確か7人兄弟の末っ子だって言ってなかったか?」

しかも、彼女は二年生のカラーのリボンを結んでいた。
だから俺は、あんなに苦しんだのに。

そしたら何か。お前が留年したとでも言うのかよ。
百歩譲って末っ子だって言ってたことが嘘だったとしても、同い年の妹とか、有り得ないだろうが。

それに関する答えも、わんこはいとも簡単に塗り替えた。


「ああ、すんません。俺と美空、実は双子なんですよ」
「……は?」

――ちょっと待て。
150センチぐらいのちっちゃくて可愛い彼女と、2メートル近い身長がある馬鹿でかいわんこが双子だと?

言うに事欠いて、それはない。
いくら男女の双子は二卵性になるとはいえど、似てなさ過ぎだろう。

疑いの目を向ける俺に気付かずに、米倉は続けた。

「俺と美空ね。近所では二人まとめて双子の末っ子って呼ばれてるから、自分のことも末っ子って言うてまうんですよ。小さい頃は一卵性に間違われるくらいにそっくりやったのに……、あ。家に帰ったら小さい頃や家族の写真見ます?」

そう言われて、米倉のことをちゃんと知ろうとしなかった自分に今更ながらに悔いた。


「俺ね。これでも子供の頃は、女の子に間違われるくらい可愛かったんですよ。小学校の高学年の頃とか女子の方が成長が早いからか、美空より背も低かったし」

屋上でのんびりしていた時のように、米倉は自分のことを教えてくれた。
俺が米倉のことを知ろうとしてなかったんだから、知らないことの方が多いのも当たり前だ。

「……はっ、ははっ」
「え、律先輩?」

とんだ一人芝居を打ってしまった。
勝手に一人で思い込んで、勝手に悩んで。
事の真相も、きちんと聞けばよかったんだ。

「なあ、米倉。まだ、犬小屋は空きがあるか?」

俺がそう聞くと一瞬きょとんとしたが、次の瞬間、

「うん、うん。あるっ、いっぱい空いてるっ!」

そう半ば叫びながら、俺に飛び付いてくる大型犬。
そんな米倉を前以上に可愛く思ってしまう俺は、もう終わってしまっているのかも知れない。


勝手に一人で悩んで完結してしまった小さな恋心が、再び小さな芽をつけた。



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