犬小屋の鍵、貸します。
犬小屋の鍵、貸します。

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放っておいても自分でなんとかするだろうけど、咄嗟に母性本能にも似た気持ちが沸き上がる。

ほら……、あれだ。
きっと情が移ったんだ。

どうやら駄犬でも、何日か飼っていたらそうなるらしい。

とかなんとか強がってはみるが、本当はちゃんとわかっていた。
初めて会った日から米倉に強く惹かれていた。
米倉が放ったボールが綺麗な弧を描き、真っ直ぐバスケットゴールに突き刺さったあの日から。



でっかいわんこと並んで歩く帰り道。

「…先輩」
「ん?」
「……なんで出てっ行ったん?」

そう聞かれて、お前が言うかと言ってやりたかったが、

「さあな」

ぶっきらぼうに、そう返した。
その曖昧な返事ではどうやら納得できなかったようで、しきりに首を傾げるわんこ。

「美空が何か言うたんならごめん。気にせんといて」

不意に米倉の口から出た名前に、体がぴくりと反応してしまった。

「別に。おまえが誰と付き合おうが俺には関係ないし」

そう言い捨ててやると、

「ほえ?俺、17年間、彼女なんていてへんよ?」

この期に及んで、そんなことを言い出した。




「あれ、だって一緒に住んでた……」
「ああ。美空のことか。んと、気にせんといてください。あいつ、マグカップを取りに来たんやってね。先輩によろしく言うてました」

…ちょっと待て。
話がいまいち、よくわからない。

と、いうことは何か。
米倉は彼女でもなんでもない女と一緒に暮らしていたんだろうか。

深く考える間もないうちに、その疑問の答えを知ることになる。


「美空、口うるさくて好奇心旺盛やけど、あれでも可愛いとこあるんですよ」

なんだよ。のろけかよと唇を噛んだ瞬間、

「あれでも可愛い妹やからね」

わんこの口から、思いがけない一言が飛び出した。



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