犬小屋の鍵、貸します。 犬小屋の鍵、貸します。 (47/50) 放っておいても自分でなんとかするだろうけど、咄嗟に母性本能にも似た気持ちが沸き上がる。 ほら……、あれだ。 きっと情が移ったんだ。 どうやら駄犬でも、何日か飼っていたらそうなるらしい。 とかなんとか強がってはみるが、本当はちゃんとわかっていた。 初めて会った日から米倉に強く惹かれていた。 米倉が放ったボールが綺麗な弧を描き、真っ直ぐバスケットゴールに突き刺さったあの日から。 でっかいわんこと並んで歩く帰り道。 「…先輩」 「ん?」 「……なんで出てっ行ったん?」 そう聞かれて、お前が言うかと言ってやりたかったが、 「さあな」 ぶっきらぼうに、そう返した。 その曖昧な返事ではどうやら納得できなかったようで、しきりに首を傾げるわんこ。 「美空が何か言うたんならごめん。気にせんといて」 不意に米倉の口から出た名前に、体がぴくりと反応してしまった。 「別に。おまえが誰と付き合おうが俺には関係ないし」 そう言い捨ててやると、 「ほえ?俺、17年間、彼女なんていてへんよ?」 この期に及んで、そんなことを言い出した。 「あれ、だって一緒に住んでた……」 「ああ。美空のことか。んと、気にせんといてください。あいつ、マグカップを取りに来たんやってね。先輩によろしく言うてました」 …ちょっと待て。 話がいまいち、よくわからない。 と、いうことは何か。 米倉は彼女でもなんでもない女と一緒に暮らしていたんだろうか。 深く考える間もないうちに、その疑問の答えを知ることになる。 「美空、口うるさくて好奇心旺盛やけど、あれでも可愛いとこあるんですよ」 なんだよ。のろけかよと唇を噛んだ瞬間、 「あれでも可愛い妹やからね」 わんこの口から、思いがけない一言が飛び出した。 prev|next 47/58ページ PageList / List / TopPage Copyright © 2010 さよならルーレット Inc. All Rights Reserved. |