犬小屋の鍵、貸します。
犬小屋の鍵、貸します。

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時刻はきっかり22時。
お店自体は23時まで営業しているが、高校生は22時でアップする決まりになっている。

「それじゃ。お先に失礼します」

まだ店に残ってるスタッフのみんなに声を掛けて、俺は店を後にした。

「あちゃー、まだ結構、降ってるな……」

降り出した雨は、まだまだやみそうもない。
裏口から店の外に出て、ザーザーと降り続ける雨に眉をひそめた。

ここ何日も目にしていない青空に思いを馳せて傘を差し、一歩、店外へと足を踏み出したその時。
ゴミ箱のポリ容器を置いてある物陰で、何かががさりと蠢めいた。



「え」

なんと言うか……、

「…捨て犬?」
「ひどっ!」

そこには、馬鹿でかい図体の駄犬が捨てられていた。
その犬はびしょ濡れで、俺の冗談にふっと鼻を鳴らして、

「ねえ、拾ってよ。律先輩」

情けなげに、へにゃりと笑った。


「なんで……」
「会いたかったから。律先輩、部屋も出てまうし、屋上にも来ぉへんし」

今にも泣き出しそうなその顔に、またしてもほだされそうになる。
少しばかり大きすぎる捨て犬、米倉が頭を振ると、雨の飛沫が四方に飛び散った。

「ちょっ。やめろ」

ぷるぷると勢いよく頭を振る米倉の腕を強く引き、取りあえずは片手で差している傘の中に引き入れる。
すると、思ったよりも二人の距離は近づいて、自然と寄り添う体勢になる。

「先輩。久しぶり」

間近に見下ろされながら、そう言われた。

「…おう」

ぶっきらぼうな俺の返事を特に気にするでもなく、いつものように笑っているわんこ。
濡れそぼった米倉の身体から放たれる熱に、軽い目眩がした。

「馬鹿が。風邪引くぞ」
「あ、うん。ごめん」

フィルターも何も掛かっていない中で見る米倉を直視できなくて、そう言い捨てて歩き始める。


取りあえずは濡れた体をどうにかしないと。
そんな思いから、短い間だったけど、二人で暮らしたマンションへと向かった。



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