犬小屋の鍵、貸します。 犬小屋の鍵、貸します。 (46/50) 時刻はきっかり22時。 お店自体は23時まで営業しているが、高校生は22時でアップする決まりになっている。 「それじゃ。お先に失礼します」 まだ店に残ってるスタッフのみんなに声を掛けて、俺は店を後にした。 「あちゃー、まだ結構、降ってるな……」 降り出した雨は、まだまだやみそうもない。 裏口から店の外に出て、ザーザーと降り続ける雨に眉をひそめた。 ここ何日も目にしていない青空に思いを馳せて傘を差し、一歩、店外へと足を踏み出したその時。 ゴミ箱のポリ容器を置いてある物陰で、何かががさりと蠢めいた。 「え」 なんと言うか……、 「…捨て犬?」 「ひどっ!」 そこには、馬鹿でかい図体の駄犬が捨てられていた。 その犬はびしょ濡れで、俺の冗談にふっと鼻を鳴らして、 「ねえ、拾ってよ。律先輩」 情けなげに、へにゃりと笑った。 「なんで……」 「会いたかったから。律先輩、部屋も出てまうし、屋上にも来ぉへんし」 今にも泣き出しそうなその顔に、またしてもほだされそうになる。 少しばかり大きすぎる捨て犬、米倉が頭を振ると、雨の飛沫が四方に飛び散った。 「ちょっ。やめろ」 ぷるぷると勢いよく頭を振る米倉の腕を強く引き、取りあえずは片手で差している傘の中に引き入れる。 すると、思ったよりも二人の距離は近づいて、自然と寄り添う体勢になる。 「先輩。久しぶり」 間近に見下ろされながら、そう言われた。 「…おう」 ぶっきらぼうな俺の返事を特に気にするでもなく、いつものように笑っているわんこ。 濡れそぼった米倉の身体から放たれる熱に、軽い目眩がした。 「馬鹿が。風邪引くぞ」 「あ、うん。ごめん」 フィルターも何も掛かっていない中で見る米倉を直視できなくて、そう言い捨てて歩き始める。 取りあえずは濡れた体をどうにかしないと。 そんな思いから、短い間だったけど、二人で暮らしたマンションへと向かった。 prev|next 46/58ページ PageList / List / TopPage Copyright © 2010 さよならルーレット Inc. All Rights Reserved. |