犬小屋の鍵、貸します。
犬小屋の鍵、貸します。

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いつもなら、あっという間に終了時間を迎えるアルバイト。
自分に与えられた仕事に集中すれば、時間の経過は驚くほど早い。
ただ、俺はまたもや思い出してしまっていた。わんこと彼女、二人仲良く来店した日のことを。

『大地、なんにする?』
『そうやなあ……、美空は?』

その身長差から雰囲気から、とにかくお似合いの二人だった。
彼女には敵わないと、その時、はっきり自覚したはずだ。

学校から程近いこともあって、うちの店は某高校の生徒や職員の御用達になっている。
それでも学校では目立たずひっそり行動しているからか、こうやってカウンターに立っていても、誰かに気付かれて声を掛けられることはない。


不意に、なんでこの街。
大阪に出て来たのかを思い出した。

俺には叶えなければいけない夢がある。
正直、ぬるま湯に浸かって生きてきた俺は、嵯峨野の家を出るだけにも苦労した。

「…きゃっ!」

どうやら、外は激しい雷雨に襲われているようで、一瞬、店内の照明が全て消えた。
すぐに復旧したけど、次の瞬間、再びガラガラと大きな雷鳴が轟いた。

この激しい雷雨は梅雨明けを予感させるもので、近いうちに梅雨は明けるだろう。
そうなると俺も変われるかも知れない。

「大丈夫ですか?」
「え、あっ。は、はいっ」

自然と笑顔が漏れた。
提供価格0円の営業スマイルとは違う自然な笑顔が。

もう大丈夫。俺はちゃんと笑えてる。

「ご注文は、いかがなさいますか?」
「あっ、はい。そうですね……」

何もなかったかのようにマニュアル通りに仕事をこなしながらも、何かが俺の中で変わったのを感じていた。
目の前の女子高生の頬が悪戯に赤い。

何かが吹っ切れたそれからは時間の経過が驚くほどに早く、あっという間に俺に与えられた仕事の終業時間を迎えた。



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