犬小屋の鍵、貸します。
犬小屋の鍵、貸します。

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――翌朝。
ここ数日、降り続いている雨の音で、俺は珍しく目覚まし時計が鳴り始める前に目覚めた。
きっと、眠りといってもごく浅いもので、ほんの一瞬、うつらうつらとしただけだったからだろう。

「…起き、なきゃ」

いつもより雨音が大きくはっきり聞こえるのは、今日の雨が土砂降りの雨だからだろうか。
今日も鈍痛がする重い頭をなんとか持ち上げて、俺は少しだけ勢いをつけて身を起こした。


7月に入った初日。
例年並みなら、まだ梅雨明けに十日ばかりあることを思えば、この雨は長かった梅雨の終わりを告げるものなのかも知れない。

時折、遠くの雷鳴が微かに混じる雨音を聞きながら、ベッドから這い出して、制服に手を伸ばす。
正直、学校に行くのは気が重かった。
米倉が教室に来ることはないとは言えど、米倉と顔を合わせる可能性があるのは学校ぐらいだからだ。

会いたいのに会えないジレンマに苛まれる。
だからといってこれ以上はサボるわけにはいかず、開き直りにも似た決意をもって身を奮い立たせる。

身支度とトーストと牛乳だけの簡単な朝食を済ませ、いつものように家を出た。
土砂降りの激しい雨音を傘越しに、頭上に聞きながら。

今日も米倉は、あの場所にいるんだろうか。
米倉の顔を見なくなって、もう一週間以上になる。

『律先輩、屋上で待ってるから』

米倉がそう、にへら笑ったような気がした。
屋上へと続く踊り場へ足を運べば、必ず米倉に会える。
確証はないけど、そんな気がした。

言い換えればそこでしかもう、米倉には会うことができなかった。
廊下や校庭なんかで擦れ違う偶然は別にして。

あとは、部活の時間にカメラを構え、こっそりと隠し撮りはできる。
ただ、その表情はファインダー越しのそれでしかなくて、俺だけが知ってる表情(かお)じゃない。

足元を雨に濡れた傘や水溜まりで跳ね上げた水しぶきで汚し、いつものように電車に揺られる一時間。
車窓に広がる鈍色の空を眺めて、ここ数日ですっかり癖になってしまった溜め息をつく。

今日も一日、誰とも口を利かない一日が始まる。
アルバイト先での会話は別にして。眼鏡と前髪で自分を隠し、気配もしっかり消してしまおう。

そうすることで平穏な一日が過ごせるし、今の自分はそれを強く望んでいる。



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