犬小屋の鍵、貸します。
犬小屋の鍵、貸します。

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フィルターはもういらない


結局はぐるぐる堂々巡りの末、俺はふりだしにまで戻ってしまった。
どうせならわんこに出会う前にまで戻ろうと、引っ越し先の部屋には例のパネルは飾らなかった。

本当は、全てのわんこの写真を処分しようと思った。
溜まりに溜まった、フォトアルバム三冊分。
だけどどうしても捨てられなくて、ダンボール箱に詰め込んだまま、クローゼットの奥に仕舞ってある。

未練がましいわけじゃない。
その一枚一枚が俺の腕前、つまりは写真撮影の技術が上がった証(あかし)だからと、頭の中で誰に向けるでもなくそう言い繕う。

結局、俺は以前住んでいた部屋に舞い戻った。
前回は嵯峨野から離れられると意気揚々と契約を切ったのに、舌の根も乾かぬうちに嵯峨野に頼るのは屈辱的だったが仕方がない。


「…はあ」

どこまでも未熟な自分に自己嫌悪。
だからノンケになんか近づかなきゃよかった。
好みのノンケになんか無用心に近づかなきゃよかった。

まだ、相手(ライバル)が同性なら勝算もある。
けれど、相手が女とくれば、こればかりは俺にはどうしようもない。

そもそもどう転んでも俺は女にはなれないし、男である時点で終わっている。
そもそも、ノンケの男の恋人は女であることが条件なんだから、男の俺が出る幕なんかないか。


今日も雨が降っている。
いつもよりも心なしか大きな雨音を聞きながら、ベッドに仰向いて目を閉じた。

ノンケな男に恋したことは初めてじゃない。
それでも、思春期から男子校に通っていた俺にとっては、久しぶりの痛手だ。

俺の初恋は小学生の頃で、担任の先生が泣きたくなるくらいに好きだった。
自分がゲイであることを自覚したのもその頃で、中学からは男子校で、後々は恋人になる男もセフレになる男も向こうから寄ってきた。

それなりに恋人もセフレもいたけど、どれも本気にはなれなかった。
泣きたくなるほど好きだったのは後にも先にも初恋の相手と、おそらくは米倉だけで……、そう思ったら本当に泣けてきた。



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