犬小屋の鍵、貸します。
犬小屋の鍵、貸します。

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米倉に見つけてもらって、思い掛けず構われたから浮かれてしまった。
ファインダー越しの米倉が目の前に現れたから最初は戸惑うも、米倉の穏やかさに惹かれていった。

事あるごとに、危険信号は点滅していたのに。
不用意に近づくなと心が警告していたのに、その警報機も心の垣根も取り払ったのは紛れもなく俺だ。

俺自身の肝心なことは伝えないくせに、いらないことまで知ってしまった。
彼女の存在は知っていた。
そこまででも本当は、十分に打撃を受けていた。

なのに、追い撃ちを掛けるように彼女が俺と暮らし始める前のルームメイトだった事実を知ってしまったから、こんな思いをする。

一度、そう思ったらもう駄目だった。
米倉の前で知らん顔はできない。

ファインダーを完全に取っ払った今になっては、傷つかないためのフィルターの掛け方も忘れてしまった。

ここにきて、再びぐるぐると堂々巡りのループに陥ってしまっている。
こうなってしまったら、心のレンズに蓋をするしかないのだろうか。



わんこと暮らすと決めて行動を起こした時もそうだったが、今回も俺の行動は早かった。
この部屋を引き払い、また一人に戻ろうと心に決める。
幸い、引っ越す先の部屋は腐るほどあるし、なんのことはない、以前の生活に戻るだけだ。

そして月曜日。
俺は初めて学校をずる休みして、わんこと暮らした部屋を引き払った。
引っ越し荷物は身の回りのものだけだから、引っ越し自体も半日ほどで簡単に済んだ。

わんこからもらった合い鍵は、リビングのテーブルの上に置いてきた。
わんこには携番もメアドも教えてないから、わんこから連絡が入ることもないだろう。

同じ学校に通学してるんだから、偶然顔を合わせることもあるだろう。
だけど、わんこがうちのクラスまで来ることはないし、俺が屋上に行かなければもう会うこともない。

人が嫌がることは絶対にしないわんこ。
俺が目立つことを嫌っているのを知っている。

だから多分、俺が顔を出さなくても、わんこは忠犬はち公のようにいつまでも屋上で俺が来るのを待ち続けるんだろう。

そう考えたらまた胸が痛んだけど、俺の胸はもう、これ以上の打撃には堪えられそうにない。



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