犬小屋の鍵、貸します。
犬小屋の鍵、貸します。

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表向きは勘当したという立場上、親父も俺に干渉できないんだと思う。
俺も早く独立したいと思うも、高校だけは親父の臑を、かじれるだけかじってやることにしている。

それは、高校を卒業するまでの数ヶ月、これからの進路に向けて資金も貯蓄しとかなきゃいけないからだ。
ある程度の貯金はあるものの、いつまでも親に頼るわけにはいかないし、男としてのプライドもある。

そんな思いもあって、嵯峨野を離れてここ、大阪のマンションで、アルバイトをしながら暮らすようになった。
東京の実家を出たのが高校三年生に進学する春休みで、今はこちらの大阪府立某高校に編入している。

初めての一人暮らしに、初めてのアルバイト。
何もかもが初めてのなか、器用さが幸いした。
夏休みを目前にする今、なんとか普通に料理もこなせるし、家事一般も難無く熟している。

家賃はタダ。
生活費は親からもらった小遣いを貯めてきた貯金を崩し、アルバイト代は全て将来のための貯蓄に回す。
収支の比率だけを見ると未だ出費の方が多いけど、少しずつ貯まっていく貯金通帳を見れば、僅かながら自信もついた。

学校へ向かう通学路。
物思いに耽っている自分に気付き、苦笑う。

小さな頃から一人が好きな性格だったからか、一人暮らしも苦にはならないらしい。
ただ、三つ下の弟の陸のことだけが気になった。


子供の頃から嵯峨野の次男として、中途半端に大人から接して来られた可哀相な弟。
長男の俺のように家を継ぐでもなく、それでも、嵯峨野の名に恥じないようにと優等生でいることを強いられてきた。

思春期を迎えて少しずつ反抗心を見せるようになり、それでも俺の前では素直で可愛い弟だった。
そんな陸を残し、陸に嵯峨野を任せるようにして出て来た俺のことを陸は、どう思っているのだろう。

ただ一つだけ気掛かりなのは、そのことだけだ。

学校まで一時間以上かかるために早起きした俺は、まだ通勤、通学ラッシュ前の駅へ急いだ。



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