犬小屋の鍵、貸します。
犬小屋の鍵、貸します。

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学校ではこんな風に以前とは全く変わりなく、家でも同じだから気付かなかった。
そのまま気付かないままいれたら、どんなによかったか。

「律先輩、おやすみ」
「ああ。おやすみ」

俺のバイトが終わった頃には米倉の部活も終わって帰宅していて、一緒に晩飯を食べてすぐ米倉は眠りにつく。
俺のバイトが終わるのは夜の10時すぎだから、それまでに風呂も済ませている米倉。

休みの日にはゆっくり話すこともできるけど、普段は、ゆっくりできるのは晩飯の時間だけだった。
それでもわんこは嬉しそうで、馬鹿話もふにゃけた笑い顔も全く治まらない。


だから気付かなかった。
と言うか、気にしたこともなかった。
なのに、今日、今まさにここで、

「すみません。大地の留守中にお邪魔しちゃって」

忘れ物を取りに来たという彼女とかちあってしまった。



今日は週二のバイトの休みの日で、放課後。
近所の激安スーパーで買い出しをして、少し豪華な晩飯の用意をしていた。
米倉の練習は8時には終わって、久しぶりにゆっくり話しながら晩飯が食えるはずだった。

玄関のインターホンが鳴ってドアを開けると、そこにいたのは可愛い女の子。
以前、米倉と一緒にバイト先に来たあの子で、

「大地によろしく伝えてくださいね」

そう言って笑うと、お気に入りだと言うマグカップを一つ持って帰っていった。



…つか、それ。
全く気にせず使ってたっつの。

嫌な予感はしていた。
だけど、気付かないふりをしていた。

それが、こうやって事実を突き付けられたら、どんな顔をして米倉と向き合えばいいんだろう。

彼女はどうやらうちの学校の生徒で米倉と同学年らしく、うちの学校の制服を着ていた。
同学年だってわかるのは制服のリボンからで、男子はネクタイ、女子はリボンで学年ごとに色分けしてある。

一瞬、米倉の姉さんが留年した、だなんて都合のいいことが頭に浮かんだ。
けど、確か米倉の姉さんは二人いて、下の姉さんは女子大生だと言っていたような気がする。



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