犬小屋の鍵、貸します。 犬小屋の鍵、貸します。 (37/50) 学校ではこんな風に以前とは全く変わりなく、家でも同じだから気付かなかった。 そのまま気付かないままいれたら、どんなによかったか。 「律先輩、おやすみ」 「ああ。おやすみ」 俺のバイトが終わった頃には米倉の部活も終わって帰宅していて、一緒に晩飯を食べてすぐ米倉は眠りにつく。 俺のバイトが終わるのは夜の10時すぎだから、それまでに風呂も済ませている米倉。 休みの日にはゆっくり話すこともできるけど、普段は、ゆっくりできるのは晩飯の時間だけだった。 それでもわんこは嬉しそうで、馬鹿話もふにゃけた笑い顔も全く治まらない。 だから気付かなかった。 と言うか、気にしたこともなかった。 なのに、今日、今まさにここで、 「すみません。大地の留守中にお邪魔しちゃって」 忘れ物を取りに来たという彼女とかちあってしまった。 今日は週二のバイトの休みの日で、放課後。 近所の激安スーパーで買い出しをして、少し豪華な晩飯の用意をしていた。 米倉の練習は8時には終わって、久しぶりにゆっくり話しながら晩飯が食えるはずだった。 玄関のインターホンが鳴ってドアを開けると、そこにいたのは可愛い女の子。 以前、米倉と一緒にバイト先に来たあの子で、 「大地によろしく伝えてくださいね」 そう言って笑うと、お気に入りだと言うマグカップを一つ持って帰っていった。 …つか、それ。 全く気にせず使ってたっつの。 嫌な予感はしていた。 だけど、気付かないふりをしていた。 それが、こうやって事実を突き付けられたら、どんな顔をして米倉と向き合えばいいんだろう。 彼女はどうやらうちの学校の生徒で米倉と同学年らしく、うちの学校の制服を着ていた。 同学年だってわかるのは制服のリボンからで、男子はネクタイ、女子はリボンで学年ごとに色分けしてある。 一瞬、米倉の姉さんが留年した、だなんて都合のいいことが頭に浮かんだ。 けど、確か米倉の姉さんは二人いて、下の姉さんは女子大生だと言っていたような気がする。 prev|next 37/58ページ PageList / List / TopPage Copyright © 2010 さよならルーレット Inc. All Rights Reserved. |