犬小屋の鍵、貸します。
犬小屋の鍵、貸します。

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どこまでも青く澄み渡る空。
久しぶりの晴天。
いわゆる梅雨の中休み。

午前の授業を終えた俺は、いつもより足早に屋上へ向かった。

懐に隠しているのは一眼レフカメラ。
誰にも見られないように、決して大きくはない弁当箱で隠す。
当然、隠し切れるわけもなく、こそこそ行動するその姿は怪しい以外のなにものでもない。

ただ、前髪で顔を半分近く隠した平凡な眼鏡男子に注目する者は誰もいなくて、誰に呼び止められるでもなく屋上に着いた。

「わ、眩し……」

いつもなら既にわんこが待っている。
久しぶりの太陽光線に目が慣れてきた俺はわんこの特等席を見遣ったが、まだわんこはそこにいなかった。

久しぶりに一眼レフを構え、階下に向けてピントを合わせる。
このカメラは小学生の頃に初めて買ってもらった一号機で、性能自体は差ほど良くはない。
望遠ズームも最新機には到底、敵わないけれど、その分、技量が問われるから気に入っている。

普段から進んで撮影しているのは人間を始め生物で、久しぶりに静物、つまりは風景にカメラを向けた。
動物特有の目まぐるしく変わる一瞬一瞬とは違い、静物にはそれはない。

ただ、それでも一ヶ月前とは全く違ったそれをカメラに納めるのも悪くはないかも知れない。

渡り廊下の向こうにひょろ長い影。
水溜まりをひょいと飛び越えて、こちらの校舎に向かって来る。

人物、そのものは追わずに、その影と風景をカメラで追った。
ぴょこぴょこと跳ねるような歩き方。
連写で上手く切り取れるだろうか。

校舎に入ってしまっても、そのまま残像を追い掛ける。

その一連の作業に没頭していると不意に、

「あ、先輩。今日は先に来てたんや」

背後で扉が開く音がして、続いて、いつもの間の抜けた声がした。




(――ごめん、米倉。今日は構ってやる暇はないかも)

心の中で独りごちながら、フィルムを交換してシャッターを切り続ける。

「今日は本格的ですね」

俺の返事がないことも特に気にとめず、米倉は、いつものフェンス前に寝転がった。

「んー、やっぱり気持ちいいなあ」

軽く伸び上がり、そんなのんきなことを言ってるわんこ。

久しぶりに渇いたコンクリートの上。
真上に近い位置から照り付ける太陽が、さっきのカメラで追ったのと同じ影を落とした。



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